【書籍レビュー】ごほうびはアリ? ナシ? 「経験」と「勘」だけの子育てから正しく脱却するために

【書籍レビュー】ごほうびはアリ? ナシ? 「経験」と「勘」だけの子育てから正しく脱却するために

中室牧子『「学力」の経済学』

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文:栗橋 望(CHIENOWA)
本書は、科学的根拠でもって教育を解き明かす本です。読み終えた後に、昨秋のラグビー日本代表の劇的勝利を象徴する「ジャイアントキリング(Giant Killing)」という言葉が頭に浮かびました。
「ジャイアントキリング」とは、英語で「番狂わせ、弱者が強者を倒す」という意味です。体の小さな日本人が、世界ランク3位の南アフリカ相手に互角にスクラムを組み、果敢に攻めつなぎ、粘って粘って最後にトライを決めたドラマティックな逆転勝利でした。

「経験」を数値化することで、番狂わせを可能にしたラグビー日本代表の戦略
実は私がラグビー日本代表に興味を持ったのは、躍進の裏に緻密なデータ分析という科学的なアプローチが奏功していたと知ったからです。GPS、ワットバイク、ドローンなどのツールから収集したデータは、分析専門のスタッフを経て日々のトレーニングの成果として選手自身にフィードバックされるそうです。選手は「今日は調子が良かった」「なんだか調子が悪い」といった感覚的な情報ではなく、自分がどれだけ動いたか、どう体が感じているのか実際の数値情報と向き合うことになります。
またデータをもとに、目標設定・進捗管理も行いやすくなり、「勘」や「経験」に頼らずに「PDCAサイクル(計画→実行→評価→改善を繰り返すことで成果の質を高めること)」をまわすことができるようになったそうです。一般的に「経験」や「勘」など、数値化できないと思われていた情報も、日々大量のデータを効果的に分析することがチームの総合力の向上につながり、それがすばらしい成果を生んだという意味で、あの試合は象徴的な勝利だったと思います。
「経験」と「勘」。この言葉はそのまま教育分野にも置き換えることができないでしょうか。書店で教育の棚を覗いてみると、カリスマが教える育児法、個人の経験談をまとめたコミックなど実に多彩。しかし、ほぼすべての本が(サンプル数の多寡はともかく)個人の経験にもとづいた情報しか載せていないことに、ある日気づいて愕然としました。この本ではこう言ってるけど、ほかの本では逆だ。この方法は本当にわが子に有効なんだろうか。あまりにも環境が違いすぎて参考にならない……など、どのページをめくっても迷うことが多く、すっかり育児関連の本に失望してしまったことがあります。
前置きが長くなりましたが、本書はこういった迷いに1つの答えを与えてくれました。
ものすごく平たく言うと「教育」にもデータ分析と効果検証が必要という内容です。データ分析がなぜ教育分野に活かされないのか? という著者の自問から始まり、統計や実験・研究の豊富な実例を用いて、教育という「経験」と「勘」で今まで片付けられることの多かったトピックが次々と斬られていきます。

「ごほうびをあげる」という子育てにも、心理メカニズムを用いて考えてみる
たとえば「ごほうび」問題。子どもにごほうびをあげることは悪いことなのか? だとしたら、どうして悪いのかという、親なら誰もがぶつかる問いには、「『目先の利益や満足をつい優先してしまう』という心理メカニズムを逆に利用するという戦略としてはインセンティブは効果的」だとしています。詳しくは筆を割いている本文をぜひご覧いただきたいのですが、ひとりの親として、ごほうび(インセンティブ)ひとつにもきちんと考えや戦略を持って効果検証せねばならない、という自覚を持たせてくれました。
また、ポジティブな意味で使われることの多い「やればできる」という声かけがいかに長期的に効果を生まないか、納得をもって理解することができたのは本書のおかげです。詳しくはこれまたぜひ本文をご覧になってみてください
最後になりますが、ラグビーは野球やサッカーなどに比べて「番狂わせの起きにくいスポーツ」だといわれているそうです。子育ては二十数年がかりの、予算と資源が限られたビッグプロジェクト。わが子の未来にもラグビー日本代表の勝利のような「ジャイアントキリング(Giant Killing)」をもたらすためにも、親が身に着けるべき知恵が本書に凝縮されています。ラグビーの例をひくまでもなく、科学的手法をもとにした効果検証は、教育にも同じように素晴らしい成果をもたらしてくれるはず。ぜひ付箋片手に、本書を手にとってみてください!

『「学力」の経済学』

1,728
著者:中室牧子 
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
プロフィール

栗橋望(くりはし のぞみ)
クレディセゾン 営業企画部プロモーション戦略G所属。4歳の長男と夫の3人暮らし、2015年10月より時短勤務から通常勤務に切り替えたばかり。

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