「お母さんにやさしい国」世界一のフィンランドから学ぶ、日本の子育て問題

「お母さんにやさしい国」世界一のフィンランドから学ぶ、日本の子育て問題

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日本に「イクメン」という言葉が広まり、育児に積極的に参加するパパが増えた昨今。政府の「パパ育休支援」「女性活躍推進」が盛んになりつつありますが、実際は保育園不足で社会復帰ができないママや、ハードな働き方ゆえに家に帰れないパパなど、多くの家庭で理想の子育てができていないのが現状です。

今回、インタビューに答えてくれた元駐日フィンランド大使館の参事官、ミッコ・コイヴマーさんは「何十年も前から男女そろって家事と育児を担っているフィンランドでは、そもそも『イクメン』という言葉がありません」と、言います。フィンランドは男女平等という意識が高く、男性も子育てをすることが「普通のこと」になっているそうです。さらに、自治体の子育て支援「ネウボラ」や、出産時に支給される「育児パッケージ」など、さまざまな方法で政府が子育て支援をしていることから「お母さんにやさしい国ランキング」(※国際NGOセーブ・ザ・チルドレン調べ)で2013年から2年連続、世界トップに輝いています。フィンランドにおける家庭や子育ての内情、そして日本に精通するミッコさんから見た、我が国の課題について教えていただきました。

取材・文:吉田可奈 撮影:豊島望
プロフィール

ミッコ・コイヴマー
1977年生まれ、フィンランド出身。元駐日フィンランド大使館の参事官。1997年、ヘルシンキ大学に入学し、日本に関する研究で修士号を取得。2003年から1年間、早稲田大学に入学。大学院修了後、独立系メディア・サービス・エージェンシーなどを経て、参事官に就任。現在はフィンランド最大の開発協力NGOのコミュニケーション部長として働くほか、ムーミン版 育児パッケージを作るフィンランド・ベイビー・ボックス株式会社の日本代表でもある。プライベートでは妻と1男2女の子どもたちとの5人家族。
子どものケアはもちろん、子育てをするママパパにも寄り添ってくれる政府の支援
―子育て支援が充実しているフィンランドでは、子どもを出産すると政府から母親手当として、ベビーグッズがたっぷり入った「育児パッケージ」が無償提供されると聞きました。このサービスはいつごろから始まったのですか?

ミッコ:1930年代から始まりました。当時はフィンランドが独立してから20年ほどしか経っておらず、ベビーベッドすら買えない貧困層が多かったんです。それゆえに乳幼児死亡率が高かった。そのことを深刻な問題だと考えた政府は、少しでも死亡率を下げようとこのサービスを始めたのです。最初は「おさがり」の洋服などが入っていたのですが、すぐにさまざまな企業が協力し始めたことで、今の形になりました。最初は所得制限がありましたが、フィンランドは平等であることを大事にしている国。数年後にはすべての人に提供されるようになりましたね。

―内容がとても充実していることもあり、現在では日本をはじめ、他国でもフィンランド政府の育児パッケージを再現した「ベイビー・ボックス」を購入できるようになったそうですね。どんなものが入っているのでしょうか?

ミッコ:新生児に必要な洋服やおむつ、ベビーマット、歯ブラシやおもちゃといった生活グッズなど、育児に必要なものが50点も入っています。このグッズが入っている箱はベビーベッドにもなるんですよ。だから箱は色がキレイでデザインのかわいいものが多く、現在私たちが取り組んでいる民間企業の「フィンランド・ベイビー・ボックス」はムーミンのデザインがとても人気となっています。さらにフィンランドでは、「育児パッケージ」のサービスと同じくらいのタイミングで「ネウボラ」(フィンランド語で「アドバイスする場所」の意)という公営の無料手当も始まりました。簡単に言えば、日本の保健師さんのいる自治体のようなものです。ただ、関わり方はかなり密で、妊娠中の無料健診はもちろんのこと、出産前後のママやパパの心のケア、産後は赤ちゃんのことについて、専属で相談を受けることができます。

フィンランド政府の育児パッケージを再現した「ベイビー・ボックス」は日本からも購入可能/写真提供:フィンランド・ベイビー・ボックス株式会社
―赤ちゃんのことだけに集中せず、パパやママについても、妊娠期から就学前までしっかりケアをしてくれるということでしょうか?

ミッコ:その通りです。日本でも赤ちゃん健診などがありますが、ママやパパのメンタルまでしっかり気遣うようなサービスは少ないですよね。でもネウボラはあくまでも「利用者目線」。赤ちゃんのことを見るのは当たり前として、その赤ちゃんを育てる両親のケアを大事にしているのです。
ちょうど良い距離感で、信頼できるフィンランドの「ネウボラおばさん」の存在
―たしかに、妊娠中だけでなく、産後に悩みが増えたというママも多くいます。それをしっかりと相談できる人や場所があるのはいいことですね。

ミッコ:僕の両親は離婚をしていて、それぞれが再婚しているので両親が2組いるんです。その全員が子育てについてバラバラのアドバイスを言う(笑)。時代の流れもあるので、我が家に子どもが生まれたときは「ネウボラおばさん」(ネウボラにいる保健師さんの愛称)にアドバイスをたくさんもらっていました。何より、彼女に相談してよかったなと思うのは、押しつけないところ。「こうするべき」と言うのではなく、「こういう案もあるんじゃない?」と言ってくれる。自分の両親だと、ついつい「こうしなさい」ってなってしまいますよね。そのいい距離感があるから、信頼できるのかもしれません。ネウボラおばさんは、子どもが小学校に入るまでアドバイスを受けることができます。大きくなるにつれて健診は減っていきますが、なかでも興味深い健診が2回ほどあるんですよ。

―どんな健診でしょうか?

ミッコ:1歳半と4歳の健診で、ネウボラおばさんは子どもと二人きりで面談をすることになっています。親のいないところで子どもの様子を見て、子どもの口から、家庭の話を聞く。そこでネグレクトなどを発見することができるので、すごく重要な面談なのです。

―なるほど。それはすごくいいジャッジになりそうですね。日本では、健診にママしか来ないケースが多いですが、フィンランドのパパはいかがでしょうか?

ミッコ:フィンランドでは多くのパパが一緒に参加します。私も子どもの健診はほとんど一緒に行きました。ネウボラおばさんは、私に向かって、「パパは元気ですか?」と問いかけてくるんです。男性は女性よりも親になる実感が遅いので、こうやってネウボラへ健診に行き、第三者から「パパ」と呼ばれることがその助けになっているのかもしれません。実際に私も妻が妊娠したとき、病院で子どもの心音を聞くまで父親の自覚はほとんどありませんでしたからね(笑)。

―日本でもその文化が広まりつつありますが、まだまだ理解されていません。パパが妊婦健診や発達健診で会社を休むことが、あまり良いとされていない気がします。

ミッコ:そうですね。フィンランドはそこに関してはすごく柔軟だと思います。さらに、女性も強く、外圧も多くあるので……(笑)。奥さんや社会の目によって、パパになるという人が多いのかもしれません。

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