直木賞作家・重松清が語る。育児哲学よりも「思い出」が親を強くする

直木賞作家・重松清が語る。育児哲学よりも「思い出」が親を強くする

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多感な年頃の子どもが抱える悩みやいじめ、そしてセンセーショナルな少年犯罪……。今を生きる子どもたちの心情を鋭く描いた作品を数多く送り出してきた直木賞作家、重松清。

移り行く時代の中で、大人は子どもに何ができるのか? 働きながら子育てをする現代の家族に必要な「環境」「絆」は、どこで生まれるのか。子どもをとりまく環境や親心の描写には傑出している作家自身も、2人の娘さんがいる父親でもあり、育児経験者。家族と向き合ってきたからこそわかる、触れ合うことの大切さや、子どもが生きることを楽しめる社会にするために必要なことなどを伺いました。

取材・文:麦倉正樹 撮影:豊島望
プロフィール

重松清(しげまつ きよし)
1963年、岡山県生まれ。出版社勤務を経て、フリーライターとして独立する傍ら、執筆活動に入る。デビューは『ビフォア・ラン』(1991年)。その後、1999年に『ナイフ』で坪田譲治文学賞を受賞。『ビタミンF』(2001年)で直木賞、『十字架』(2010年)で吉川英治文学賞、『ゼツメツ少年』(2014年)で毎日出版文化賞を受賞するなど、数々の賞を獲得している。著書はほかに、『流星ワゴン』『疾走』『その日のまえに』『きみの友だち』『きよひこ』『エイジ』『カシオペアの丘で』『青い鳥』『くちぶえ番長』『せんせい。』『とんび』『ステップ』『卒業』『愛妻日記』『ポニーテール』『空より高く』『一人っ子同盟』など多数。現代の家族をテーマにした話題作を次々に発表している、日本を代表する作家。
育児の信念や哲学よりも、粉ミルクの温かさや、持ち上げたときの重みで子育てを実感するのが大事。
―重松さんは親子や夫婦を題材とした小説を数多く書かれていますが、そもそものきっかけはあるのですか?

重松:やっぱり自分にとって身近だったし切実な問題だったんだろうね。小説を書くまで、俺はフリーライターをずっとやっていて、カミさんが学校の先生をやっていたから、保育園の送り迎えとかはほとんど俺がやっていたんだよ。だから普通のサラリーマンのお父さんよりは、子どもと日常的に接する機会が多かったけど、そうなると必然的に「親って何だろう?」とか「今の時代、子どもを育てるって何だろう?」って考えることも多くなるわけ。
―ちなみに、何歳のときにご結婚されたのですか?

重松:結婚したのが22歳。大学を卒業して、すぐ結婚したんだよね。で、上の子が生まれたのが28歳のときで、俺はその年に小説のデビュー作を書いたから、上の子と作家歴が、ほぼ同じ。で、俺が33歳のときに下の子が生まれたから……今、上の子が24歳で、下が19歳、どっちも女の子です。
―子育てに関しては、割と積極的なほうだったのですか?

重松:うーん、積極的って言ったら、カミさんにぶっ飛ばされると思う(笑)。まあ、やらざるを得ないからやったみたいなところはあったと思う。最近のいわゆる「イクメン」のような意識をもって育児をするというよりも、「しょうがねえなあ」っていうのが正直なところでさ。だから、けっして自分がいいお父さんだったという実感はないんですよ。ただ、家で仕事をしていたから、小さい頃のフィジカルな手応えというか、実感みたいなものは結構あったと思う。
―たとえば、どんなことでしょう?

重松:保育園の送り迎えのとき、娘が2歳の頃は、俺が指を1本出したら、それをギュッと掴んでいたんだけど、1年経つと指が2本になるのよ。娘の手が大きくなるにつれて、それが3本になり、4本になり……普通に手を繋げるようになっていく。そうやって成長していく実感みたいなものが、親として子育てをしている自分への支えになった気がするんだよね。
―なるほど。

重松:だから「高い高い」とか、「抱っこ」とかするのって、もちろん子どもが喜ぶからっていうのはあるけど、その重さで子どもの成長を実感しておくみたいなところもある。育児の哲学とか信念とかっていうものよりも、単純に粉ミルクを溶いて冷ますときの温かさだったりさ。そういうものって、意外と馬鹿にできないというのが、今振り返ってみて思うことかな。

―そういうディテールを、しっかり感じておくことが大事であると。

重松:俺の担当編集には、新米ママとか新米パパが多いんだけど、彼らにいつも言っているのは、「1歳までのあいだに子どもの足の裏をいっぱい触っておけよ」っていうことで。一度歩き出したら、子どもの足の裏ってどんどん硬くなるんだよ。やっぱりさ、子どもの成長って逆戻りできないわけだから、ハイハイのスピードはちゃんと自分の目で見て覚えておかないと、あとで見ようったって無理なんだから。もちろん、ビデオをまわして動画をたくさん残しておくことも大事だけど、それ以上に歩く前の柔らかい足の裏を触って覚えておくことが大事なんじゃないかって俺は思うんだよね。
―その実感が、のちのち親としての心の支えになるということですね。

重松:そういうこと。「お前の足の裏は、こんなにふにゃふにゃだったんだぞ!」とかさ。その実感が、自分が親であることを後ろから支えてくれるわけで。こんな子どもに育てるんだとか、こんな親になるんだっていう気構えも大事だけど、それよりも指1本ぎゅーっと握られたときの感覚を持ち続けておいたほうが、子どもが育つ中でややこしくなったときに、踏ん張るための支えになるというかさ。そんな下支えになる子育ての記憶がたくさんあると、親として強くなれると思う。

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