無視され続けた障害児保育への怒り フローレンス代表・駒崎弘樹×村上絢

無視され続けた障害児保育への怒り フローレンス代表・駒崎弘樹×村上絢

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日本中を騒がせたブログ記事「保育園落ちた日本死ね!!!」など、メディアでも大きく取り上げられることが増えてきた仕事と育児の両立問題。そんななか、12年前から「病児保育」や「待機児童」問題に先進的に取り組み、法改正や保育制度にも影響を与えてきたのが、37歳で社会起業家として活躍する認定NPO法人フローレンス代表の駒崎弘樹さんです。

「『ニューズウィーク』世界を変える社会起業家100人」にもノミネート(2007年)されるなど、世界からも注目を集めている駒崎さん。2014年には、医療的ケアを必要とする障害児が通える保育園が、日本にほとんど存在しないという衝撃の事実を知り、その問題を解決するため、自ら障害児保育園ヘレンを開設しました。

そして、前例のない障害児保育園という社会事業に取り組むなかで、いま、駒崎さんが「社会を変える手段」として可能性を見出しているのが「寄付」という方法。いったい、寄付によってどのように社会は変わっていくのでしょうか? 自らもワーキングマザーであり、フローレンスに対して積極的に寄付を行っている村上財団・代表理事の村上絢さんとともに、寄付がもたらす社会変革の可能性について語っていただきました。


取材・文:萩原雄太 撮影:相良博昭
プロフィール
駒崎弘樹(こまざき ひろき)
1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2004年にNPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを開始する。2010年からは待機児童問題の解決のため、「おうち保育園」を展開。2014年には、医療的ケアの必要な障害児や重症心身障害児を専門的に預かる「障害児保育園ヘレン」、2015年から「障害児訪問保育アニー」をスタート。2016年、赤ちゃんの特別養子縁組を支援する「フローレンスの赤ちゃん縁組」事業をスタート。現在、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長、内閣府「子ども・子育て会議」委員を務める。一男一女の父であり、子どもの誕生時にはそれぞれ2か月の育児休暇を取得。
http://www.komazaki.net/
http://florence.or.jp/


村上絢(むらかみ あや)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業。モルガンスタンレー証券会社債券部に勤務。その後、投資家として株式投資を通じて日本の上場企業におけるコーポレートガバナンスを訴える活動を開始。一方で、高校時代の留学を通じて経験した海外における社会貢献活動のあり方にも影響を受け、父である村上世彰氏の意志を継ぎ、NPO法人チャリティ・プラットフォームの代表に就任。2016年8月、より幅の広い社会貢献活動を目指し、村上世彰氏が創設者となり村上財団を設立、代表理事に就任。
https://murakamizaidan.jp/
子どもは親の子であると同時に、社会の子でもありますよね。だから社会が助けるのは当たり前。(駒崎)
―今日は「障害児保育」をテーマにお二人にお話をお伺いしたいと考えているのですが、まずはその現状について、あらためてご説明いただいてもよろしいでしょうか?

駒崎:いま、都市部での保育園待機児童問題が深刻だと、メディアなどで騒がれていると思いますが、障害児の親御さんはさらに悲惨な状況に追い込まれているんです。現状、全国の保育園で、重度の障害児を預かってくれるところは数軒しかありません。親御さんは、24時間365日の介護のためにどちらかが会社を退職せざるを得ず、経済状態も悪化しがちで、精神的にも孤立してしまいます。ひとり親家庭にいたっては生活がすぐに困窮してしまいます。

そこでNPO法人フローレンスでは、2014年に医療的ケアを必要とする子どもや重い障害のある子どもを預かる障害児保育園「ヘレン」を、2015年に障害児訪問保育サービス「アニー」をスタートしました。

駒崎弘樹
―そもそも、なぜ障害を持った子どもたちは保育園に通うことができないのでしょうか。

駒崎:やはり保育園は保育の場なので、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが必要だと対応できないんです。ただその一方で、新生児医療の進歩によって、以前なら出産後に亡くなっていた未熟児や先天的な疾病を持つ子どもが助かるようになり、「医療的ケア児」の数は増えています。その保育の問題がずっと放置されたままだったんですね。

―こういった問題がずっと放置されてきたのは、社会の人々の意識がそこに向いていなかったということでもありますよね。

駒崎:「障害児を保育園に預けてまで働くの?」という社会的な圧力はとても強く残っています。また、母親も「この子に障害があるのは自分に責任があるんじゃないか」と自責の念にかられることも少なくない。その結果、育児を背負い込み、社会的にも孤立してしまうんです。

けれど、子どもは親の子であると同時に、社会の子でもありますよね。その子たちがこれからの社会を支えていくんだから、社会が助けるのは当たり前であり、「申し訳ない」と感じる必要は一切ありません。障害があるから保育園に預けられないような状況こそ、解消すべきです。

障害児保育園ヘレン すがも
いまの社会では、障害を持つ子どもが生まれると、仕事を諦める母親が多いのが現状だと思います。(中田)
―今日、取材に同席しているクレディセゾンの中田さんには、障害を持ったお子さんがいらっしゃいますが、いまの障害児保育の状況についてどのように感じていますか?

中田:駒崎さんがここまで理解してくれていることがとても嬉しくて、泣きそうになります。私は妊娠中に子どもに重い障害があることがわかったのですが、障害児保育園ヘレンの存在を知って、もしかしたら仕事を辞めなくてもいいかもしれないと思うことができました。しかし、いまの社会では障害を持つ子どもが生まれると、仕事を諦める母親が多いのが現状だと思います。

―障害児保育には何が足りないと感じていますか?

中田:障害児保育だけに限らず、医療的ケアを必要とする子どもが増えているのに、地域にはその子たちを受け入れる環境がほとんど存在しません。高齢者に対するヘルパーや理学療法士の方はたくさんいらっしゃいますが、小児のケアができる方は非常に少ないです。

私の子どもは目線も合わず、笑わず、一緒に遊んでも反応しなかったのですが、訪問リハビリの先生に出会ってからは、わずか1か月で笑うようになり、おもちゃを掴んで口に入れることもできるようになりました。障害児でも、専門の知識を持つ先生の指導の下、適切な刺激を与えれば発達できるし、改善していきます。

障害児保育園ヘレン すがも 写真提供:認定NPO法人フローレンス
駒崎:高齢者介護では、利用者の状態にあわせてケアプランを立てるケアマネージャーがいますが、障害児保育にはそのような役割の人がいません。だから、親御さんは障害児を抱えながら、役所の保育課や福祉課、保健所、病院などに何度も足を運んで、その子にあわせたケアプランをコーディネートしなくてはならないという問題もあるんです。

ただ、われわれの実践によって、政治家の方々もこの問題に気づいてくれました。2017年に施行される「改正児童福祉法」では、障害児保育のための相談窓口を作ることを盛り込んでもらえたので、今後は少しずつ変わっていくと思います。後は、自治体によって障害児保育に対する熱意に差があるため、市民がどれだけ自治体にプレッシャーをかけられるかが勝負になってくるでしょうね。

―そんな状況のなか、障害児保育園ヘレンは現在2か所(杉並区・豊島区)、2017年にはさらにもう2か所(世田谷区・江東区)増えるなど、徐々に活動が広がりつつありますね。

駒崎:今年6月に改正が決まった「障害者総合支援法」でも、初めて「医療的ケア児」という言葉を加えてもらえたんです。今後はより多くの支援制度が確立し、医療的ケア児を巡っては大転換期に突入するでしょう。2年間でここまで社会を動かせたのは上出来だと思います。けれども、その反面インフラはまだ乏しいのが現状です。日本全国で、どんな身体で産まれた子どもでも保育園に入園できる環境が整うことが理想ですね。

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