【書籍レビュー】絶望を感動に変えた、日本製紙石巻工場の挑戦

【書籍レビュー】絶望を感動に変えた、日本製紙石巻工場の挑戦

佐々 涼子『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』

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文:大橋礼子(CHIENOWA)
5年前の東日本大震災。ちょうどその頃、とあるビジネス書の出版準備に携わっていた私は「震災被害で製紙工場と物流がストップしているため、発売日が延びます」と出版社の人から連絡を受けた。それを聞いて、東北に製紙工場があるんだ、あの津波被害を受けていたら工場も大変だね、とテレビで目にした被災地を想像しながら同僚と話していた。今思えばその現場が、この書で取材されている日本製紙石巻工場だったのだ。

本書は、津波で壊滅的被害を受けた日本製紙石巻工場で働く人々の震災当時から再生までの様子を、様々な立場の人へのインタビューから浮き彫りにした1冊だ。

半年復興にかける現場リーダーの決断
あまり知られていないが、実は日本の出版用紙の約4割を日本製紙が生産しており、基幹工場の石巻工場は、世界屈指の規模を誇る。その石巻工場の中でも、高度な専門性を持ったマシンの8号は、出版社では「ちょっと知られた存在」。単行本、文庫本、コミックなどあらゆるジャンルの紙を供給し続け、出版業界を支えてきた。その8号が工場ごと津波に飲みこまれ、完全に機能停止の状態に陥った。

石巻工場では、当日出勤していた1306名の命が助かったが、社員の多くは家族や知り合いを亡くし、家を失い、食べるものすら十分に確保できない、そんな危機的状態に。壊滅状態の工場を目の当たりにして「この工場はもうダメなのかもしれない」という空気も漂い始めていた。そんなある日、現場リーダーの工場長が口にしたのは、「1台だけでいいからマシンを立ち上げたい。期限は半年」。その無謀すぎる話に一同は唖然とする。しかし同時に、「半年復興」という目標が、明るい話題のない被災地において彼らがすがりつくことのできる唯一の希望となった。そして、これまで信頼関係を築いてきた取引先や顧客の応援もあり、半年後の2011年9月14日、彼らは見事夢を実現する。

「自分の会社は地域に貢献できているか?」
この半年復興を実現した背景にあるものは何だったのだろうか。一つは、現場トップである工場長の強烈なリーダーシップだ。会社の命運と、従業員たちの生活、さらには地域さえも背負い、心の揺れを他人に気取られまいとする孤独な一面もあったと後に語っているが、半年間にわたり現場の社員を鼓舞し続けた。しかも、東京本社の社長が決断を下す前に、現場で悩み苦しむ部下たちのために目標を公言したのだ。大きな賭けだった。それでも、そのタイミングで現場に必要な、そして実現可能な線での目標設定をできたのは、工場長が一緒に働く仲間の一人ひとりを信頼して、一歩踏み出す勇気を持っていたからではないか。

もう一つは、彼らの地域貢献への強い想い。石巻工場は従業員の8割が石巻出身で、地元の雇用を大きく担っている。彼らはこの工場を立ち上げることが、自分たちにできる精一杯のことで、地域のためになるのだと信じていた。地元の人たちも「パルプさん頑張って」と支援してくれている。4月のある日、工場長の提案で煙突に掲げた「Power of Nippon」「今こそ団結、石巻」と手書きで大きく書かれたこいのぼりは、地元の人たちを勇気づけている。日本製紙が石巻の地域と共存しようと努力をしてきたからこそ、応援しあう関係ができているのだ。全国に点在する自分の会社は、それぞれの地域でどのように貢献できているのだろう? どのような貢献の仕方がほかにあるのだろうか? あらためて考えさせられる。

子どもに誇れる仕事をしよう
8号機を担当するリーダーの娘さんは、小さい頃に父親に言われたことを覚えているという。「紙にはいろんな種類があるんだぞ。教科書は毎日めくっても、水に浸かっても、破れないように丈夫に作られているだろ? コミックにも工夫がいっぱいあるんだ。薄い紙で作ったら、文庫本の厚さぐらいしかなくなっちまう。それじゃあ子どもが喜ばない。手にとってうれしくなるように、ゴージャスにぶわっと厚く作って、しかも友だちの家に持っていくのにも重くないようにできてる。これな、結構すごい技術なんだぞ」。

どんな小さな仕事も、すべては誰かの役に立っている。でも、毎日同じ環境で仕事をするうちに、自分の仕事と社会のつながりを忘れてしまう。そこに必要なのは、想像力なのかもしれない。「うちのお父さん・お母さんの仕事ってすごいんだよ」。親の仕事自慢をしあう子どもたちであふれたら、きっと素晴らしいだろう。そのためにも、まずは大人の私たちが子どもに自慢できる仕事をしなければいけない。

被災地に潜む心の闇に負けない人たち
また、この書では復興に向けて頑張る人の陰に潜む暗い部分についても正直に記している。夜な夜な強盗をする人。助成金目当てのエセNPO法人。日本製紙だけが物資を抱え込んでいるという噂に翻弄される人びと。それはもう、真面目に生きているだけで傷ついてしまう。それでも現地には、真面目に生きていればいつか報われると信じて毎日を一生懸命生きている人がたくさんいる。いろんな想いを胸に秘めた人たちがまだたくさんいて、もしかしたら今私の隣にいる人も、その一人かもしれない。そのことを忘れずにいたいと思う。
プロフィール

大橋礼子(おおはし れいこ)
クレディセゾン広報室に所属。1歳の女の子のママ。

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