糸井重里が考える、理想の働き方ってなんだ?「嫌々やっても結果は出ない」【後編】

糸井重里が考える、理想の働き方ってなんだ?「嫌々やっても結果は出ない」【後編】

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セゾングループが若者文化の担い手として、消費を活性化させていた1980年代。数々の名コピーを生み出し、「セゾン文化」の立役者となった糸井重里さんのインタビュー前編(糸井重里が考える、理想の働き方ってなんだ?「正しさより面白さを」)では、当時の熱狂を冷静に振り返りながら、簡単にモノが売れなくなった今の時代に、企業はどうあるべきか? について語っていただきました。後編では、より個人の暮らし方や働き方に光を当てたインタビューをお届けします。

取材:廣田周作(SAISON CHIENOWA) 構成:タナカヒロシ 撮影:菱沼勇夫
プロフィール

糸井重里(いとい しげさと)
1948年生まれ。群馬県出身。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。コピーライター、エッセイスト、作詞家など多彩な分野で活躍。西武百貨店の「不思議、大好き。」「おいしい生活。」などのキャッチコピーを生み出す。98年にwebサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を開設。2012年には、独自の価値観を生み出すユニークな企業運営が評価され、株式会社東京糸井重里事務所としてポーター賞を受賞。
ほぼ日刊イトイ新聞|http://www.1101.com/
仕事の場でどういうやさしさや楽しさに包まれているか? ということが、知性ある大人にも大きな影響をもたらすんじゃないか。
―前回、会社がいろいろ制度という枠組みを作るよりも、誰かが実際に成し遂げたモデルケースのほうが個人にとってはリアリティーがあるというお話がありました。たしかに、クレディセゾンの「SAISON CHIENOWA」のプロジェクトも、今は育休中のひとりの女性の想いから始まって、必死であがいているうちに、まわりが助けてくれるようになり、それが社長に届いて運営チームができたんです。

相河(クレディセゾン):それでこの指止まれとやってみたら、160人もメンバーが集まったのは、会社としても驚きでしたね。

糸井:すごいですね。「なんかやってみようよ」と言ったときに、まず社内に顧客を作れるというのは、そのプロジェクトに魅力があるんです。理念のすべてが賛成じゃなくても、そこに入ったほうがいいなと思わせる何かがある。それを作れたこと自体が素晴らしいんじゃないでしょうか。これまでの歴史のなかで、みんなそういうことをずっとやってきたんだと思うんです。江戸時代は江戸時代なりに、明治は明治なりに。豊臣秀吉が生きていた頃の年表を見ると、とんでもないんですよ、速度が。

―出世のですか?

糸井:それもありますけど、できごとが起きるスピードが速いんです。橋の欄干で寝ていたおさるのような子どもが、太閤秀吉になって、文禄・慶長の役では10万人くらい朝鮮に渡っているんですよね。海峡を渡る船や、武具や食糧も用意しなきゃいけないのに、ものすごく短期間でやってのけているんです。それと比べたら僕らがやっていることなんて遅く見える。インターネットのない時代の、秀吉の速度感は僕らにないものを持っていたんでしょうね。それを権力と言ってしまったらおしまいで、「やったほうがいい」って思わせるだけの必然性が彼の取り組みにはあったんだと思います。

―その速度でやろうとみんなが思うような?

糸井:はい。昔、西武百貨店の広告でピラミッドの撮影に行ったんですけど、いざピラミッドの前に立ったら、これは奴隷が作ったんじゃないなとすぐにわかったんですよ。嫌々やっていたら、ピラミッドはできない。一方で万里の長城を見たら、これは嫌々作ったなと思いました(笑)。嫌々やったことと、やりたくてやったことでは、ものすごい差が出る。

―ピラミッドはやりたくてやった?

糸井:たぶん、みんなの心がそこにあったんでしょうね。立派な設計図があったからだろうって意見もあるかもしれませんが、僕はそれはちょっと俯瞰しすぎた発想だと思います。ゲームでたとえると地図を上から見る「ウルティマ型」と、扉が次々に出てくる「ウィザードリィ型」の両方が必要なんですよ。今世の中の人は、いきなり怪物が出てきて怖い目にあう「ウィザードリィ型」じゃなくて、上から見て、ここに怪物がいますねっていう「ウルティマ型」ばっかりやっていますよね。

―たしかに。ただ、会社であれば、さっき糸井さんがおっしゃっていたモデルケースの例や、「ウィザードリィ型」みたいに、いい先輩に憧れて「俺も!」と感化されることはあると思うんです。でも、「制度」になった瞬間に醒めてしまって、笛吹けど踊らずといったことが、いろんなところで起こっているような気がします。

糸井:会社としては「ちゃんとやってます」ということを書類にしたり、制度にしないとやっていけないので、悩ましいところではありますよね。でも、それは昔から考えてきたことで、吉本隆明さん(詩人、文芸評論家、思想家。工場に勤務しながら詩作や評論活動を続け、幅広い層から支持を受けた。「戦後思想界の巨人」とも言われる)に「理想の会社ってなんでしょうかね?」と訊いたことがあるんです。

―そしたらなんと?

糸井:ひとつは先輩に愚痴を言えることだと。あとは、建物の日当たりがよくて、外に出たときにちょっとうまいものがあったり、喫茶店で休めたりするのが大事だと言うんです。それって、何も言ってないと同然に聞こえるじゃないですか。制度の話をしたい人が聞いたら、がっかりしますよね。

―たしかに。

糸井:でも、それを聞いたときに、僕が何を作っても、そのふたつにかなわないんだと、無理やりに考えてみようと思ったんです。その後も吉本さんの言葉の通りに、うちの会社は引っ越しをしているんですね。つまり日当たりがよくて、人通りが多い場所にいるようにしているんです。

―場所が人の気持ちを左右するということですか。

糸井:自分たちはどうなりたいんだ? っていう問題なんです。もちろん、人混みのなかで活気がある場所と、同じ人混みでも雰囲気が悪い場所がありますよね。そういうことが、さっき言った「内臓」で感じる部分です。たとえばの話、これから会社の灯りを全体的に暗くしますと言ったら、会社に行くのが嫌になりませんか? その嫌な部分は、数字にすると小さいんですよ。節電部分くらいにしかならないから。でも、電気を消すだけで、やる気を8割そぐくらいの大仕事をしているんです。

―環境が大きな仕事をしている。

糸井:かと言って、わざと明るくしても、おかしいと思いますよね。だから、どういうやさしさや楽しさに包まれているか? という、赤ん坊でも感じるものが、知性ある大人にも大きな影響をもたらすんだと思います。

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