マルチリンガル教育はわが子に必要?① 8割のオランダ人が3か国語を話せる理由

マルチリンガル教育はわが子に必要?① 8割のオランダ人が3か国語を話せる理由

2017年7月24日公開

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グローバル化が進み、海外でも活躍できる人材にわが子を育てたいと考えている方も多いはず。でも、何語を、いつから、どのように学ばせればいいのか。そもそも日本で暮らしていても、外国語は身につくのか。かえって、日本語がおろそかになるのではないかと、子どもの将来に関わることですから不安は尽きません。

そこで、本連載では母語以外に複数の言語を話せる「マルチリンガル」の先進国であるオランダに暮らし、オランダ・ライデン大学の日本語専任講師を務める山本絵美さんに「子どものマルチリンガル教育」についてお話をうかがいます。

初回は、オランダではなぜマルチリンガルな子どもが育つのか、そしてマルチリンガルで得られる「3つのメリット」についてご寄稿いただきました。

文:山本絵美 編集:岡徳之 撮影:原田篤
「子どもが世界一幸せな国・オランダ」の教育現場で盛んな、オルタナティブ教育とは?
ユニセフが発表した「子どもの幸福度調査(2013年)」で1位を獲得したオランダ。近年では、マルチリンガル教育の先進国としても注目を集めています。オランダの学校では子どもの自主性を重視しているため、伝統的な教育法や学習法以外にもいろいろな選択肢を認める「オルタナティブ教育」を積極的に取り入れています。たとえば、こんな教育法を耳にしたことはありませんか?

・イエナプラン教育
異なる学年の子どもたちが1つのクラスを編成し、ワールドオリエンテーションという総合学習の形態を用いるのが特徴。基本活動は「会話・遊び・学習・催し」で、それらを循環して行うことで、子どもの自発性と社会性を養う。

・モンテッソーリ教育
自主性を尊重するため、個別活動を基本とし、子どもの年齢と発達段階に合った教具を用いるのが特徴。社会性や協調性も身につけるため、クラスは異年齢の子どもを混ぜて編成する。

このような、個を大切にする「オルタナティブ教育」が盛んなオランダでは、子どもたちに何を、どのように教えるかについては学校に大きな裁量が与えられています。

一方で親は自分の子どもに合いそうな学校、行かせたい学校を、学区にとらわれず選ぶことができるのです。反対に言えば、それだけ親の情報収集力と分析力が問われるということでもあります。そんな教育環境などが話題となり、教育関係者が足を運ぶだけでなく、オランダに「教育移住」する日本人家族も増えています。

オランダ人の英語力は非言語圏で一番高く、オランダ人のうち94%が「母語+1言語以上」を、77%は「母語+2言語以上」を話すという調査結果もあります。マルチリンガル教育のメリットをお話する前に、注目すべきオランダの事情についてご紹介します。

風車、運河、跳ね橋。オランダの伝統的な風景
小学生でも「留年」がある? 他人とは比べないオランダのお国柄
オランダは教育にとても寛容で、多様な選択肢を認めています。たとえば、小学校低学年で宿題はほとんど出ませんし、子どもたちは学校が終わったら、友だちと遊んだり、サッカーやピアノなどの習いごとを楽しんだりしています。学校でも地域でも、子どもが何かに「締めつけられる」ことが少ないように思えます。

もし、物事をゆっくり理解する子がいたら、小学生でも留年が可能です。日本では「落ちこぼれ」と思われてしまう留年も、オランダでは「無理に進級するのではなく、自分のペースで学べばいい。それも『個性』」だと、まわりが受け入れるのです。また、逆に飛び級することもできます。「ほかの子と比べず、その子の良いところを見つけて伸ばそう」というのが、オランダの教育方針の特長です。

学校にもよりますが、オランダでは小学校で英語教育が始まり、中学・高校になると英語、フランス語、ドイツ語、古典ギリシャ語、ラテン語すべてを学ぶ生徒もたくさんいます。近隣諸国との距離が近く、越境も簡単なので週末はドイツやベルギーで買い物をしたり、イギリスの子ども番組を英語で見たりと、幼少期から「外国」「外国語」は「外の存在」ではなく日常や身近にあるのです。

大学の掲示板には日本語が書かれたポスターも
オランダはなぜ「マルチリンガル先進国」となった? その理由を紐解く
マルチリンガル先進国になった理由として、まずは「言語面」があります。オランダ語は西ゲルマン語族というグループに分類され、同グループである英語やドイツ語は言語が似ているのでとても学びやすいのです。つまり、似ているほかの言語を学ぶのは圧倒的に有利だと言えます。

では、日本語と似た言語はといいますと、じつは、日本語は日本語族というグループで、沖縄の琉球語を除いて(琉球語は方言説と一言語説があります)、確実な系統関係をもつ言語はないのです。しかし、韓国語は文法や語彙が少し似ているので、勉強しやすいと言われています。また、文法がやや似ていて学びやすい言語には、トルコ語、ハンガリー語、モンゴル語があります。発音しやすいのはフィンランド語やイタリア語です。

次の理由としては「環境面」が考えられます。オランダは小国で、オランダ語話者の人口は世界を見ても2,300万人程度です。ですから、昔から交易に頼らざるを得ず、そのための外国語教育にも力を入れてきました。また、オランダ語の市場が小さいこともあり、海外映画やテレビ番組も、あまり吹き替え版がなく、字幕がほとんど。そうすると、必然的に、小さいうちから、外国語に触れる機会が多くなります。これは日本人にもおすすめの方法です。子どもは言葉を耳から覚えるので、小さなお子さんがいるご家庭は字幕で見せてみるのもいいかもしれませんね。

そして最後は「国民性」です。もちろん個人差はありますが、オランダ人は社交的でおしゃべりが大好きです。スーパーのレジに並んでいるときも、前後にいる知らない人と話しだしますし、電車がなかなか来なければ「またか」「まあ、いつものことだよ」と知らない人同士で笑い合います。

外国語を話す際にもその社交性はいかされていて、多少拙くとも、「間違ったら恥ずかしい」とは思わず、その言語を積極的に使って、なんとかコミュニケーションを取ろうとします。このような国民性も、外国語習得に一役買っていると思われます。
人生において大きな武器となる、他言語習得の3つのメリット
複数の言語を習得すれば、母語である日本語の情報だけでなく、同じ事柄について中国語やアラビア語などの情報にも触れることができます。そうすると、より多角的に物事を見られるようになるため、これからの情報化社会において大きな武器となります。

また、このような実用面だけでなく、いろいろな言語や文化を習得することは、子どもの内面にも、すばらしい影響をもたらします。それは、これからの社会を「生きる力」であり、人生を楽しみながら、道を切り開く力です。ここでは3つに分けてご紹介しましょう。

まず1つ目は「創造性」です。複数の言語や文化に触れて育った子どもは、創造力が豊かだと言われています。言語学者のなかではレンガを使った実験が有名です。「レンガの使い道を、できるだけ多く考えてみて」と言われたとき、一言語のみを使う子どもたちよりも、マルチリンガルの子どもたちのほうがはるかにいろいろなアイデアを思いつくことができたそうです。

なぜなら、「犬」という単語も、英語なら「dog」、オランダ語なら「hond」と言語によって呼び方が異なるというのを学ぶなかで、いろいろな価値観を知り、自然と考え方や発想が豊かになるからです。私が卒業した都立国際高校には帰国子女がたくさんいたのですが、文化祭も体育祭も、彼らの創造性が存分に発揮され、プロ顔負けの企画力や演技で盛り上がっていました。

2つ目は「社会性」です。たとえば国際結婚の家庭で育った子どもの場合、お父さんとはオランダ語、お母さんとは日本語というように、言語を使いわける家庭が多いですよね。そして、言語だけでなく、言い方やジェスチャーなども、相手に応じて使う習慣があります。つまり、場面や相手に応じて、適切な対応をする能力が身につきます。

3つ目は「寛容さ」です。異なる言語や文化を学んだマルチリンガルな子どもは、それまで慣れ親しんだものとは異なる価値観に直面しても、「なんか違う!」とすぐに拒否反応を示したり、マイナスの判断を下したりしてしまうのではなく、違うことを受け入れることに長けています。

こうした「創造性」「社会性」「寛容さ」は、どの社会で生きていくうえでも、大切なものです。

英語だけでなく、さまざまな言語や文化を学ぶことは子どもの内面を豊かにし、将来の可能性を広げることにもつながります。これからの子育てで重要なのは、親御さん一人ひとりが、いままでの日本の教育や固定概念に縛られることなく、子どもをどのような大人に育てたいのかを考えること。

そして海外の教育にも目を向け、ご自身もさまざまな言語や文化に興味をもっていただくことが、子どもの「マルチリンガル教育」の第一歩だと思います。次回は、マルチリンガル脳で得られる「多様性」と、他言語を習得するうえで親御さんに気をつけていただきたいことについてお伝えします。
プロフィール

山本絵美(やまもと えみ)
オランダ、ライデン大学日本学科の日本語専任講師。早稲田大学大学院日本語教育研究科の博士課程にも在籍。研究テーマは「海外在住のマルチリンガルの子どもたちの言語教育」。著書に、マルチリンガルの子どもが楽しく学べる日本語教科書『おひさま』くろしお出版より2017年12月刊行予定。『おひさま』のFacebookページ https://www.facebook.com/おひさま-1731025060461592/

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