健常者が「普通」とは限らない。デフリンピック金メダル監督と考える多様性

健常者が「普通」とは限らない。デフリンピック金メダル監督と考える多様性

2017年12月28日公開

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すべての人にとって暮らしやすい、働きやすい世の中を目指し、障害者の雇用を定期的に行っているクレディセゾン。今回、その神奈川支社社員で、自身も聴覚障害を持つ小林哲平さんが中心となり、障害者とのコミュニケーションを考える記事企画が持ち上がりました。

お話を聞いたのは、聴覚障害者の選手によるバレーボール、デフバレー(「デフ=deaf」は聴覚障害者の意味)女子日本代表監督の狩野美雪さんです。全日本女子バレーボールチームの選手としても活躍し、2008年の『北京オリンピック』にも出場した狩野さんは、2011年の選手引退後、指導経験がないなかで周囲から熱望され、監督に就任。以降、聴覚障害を持つ選手やスタッフとゼロからチームをつくり上げ、2017年、聴覚障害者スポーツの祭典『デフリンピック』で見事金メダルを獲得しました。

そんな狩野さんに、選手やスタッフとのコミュニケーションをテーマにお話しいただいた今回のインタビュー。ダイバーシティ(多様性)が世の中で語られるいま、ひとつの鍵となりそうな、「フラットな姿勢」について考えるきっかけを与えてくれます。

取材・文:宮田文久 撮影:岩本良介
プロフィール

狩野 美雪(かのう みゆき)
1977年、東京都生まれ。中学からバレーボールを始め、八王子実践高校、東京学芸大学を経て、2000年に実業団チームの茂原アルカスに入部。2006年に久光製薬スプリングスに移籍し、翌年からは主将を務める。2008年には全日本女子バレーボールチームメンバーに選出され、『北京オリンピック』に出場。2010年に久光製薬スプリングスを退団し、デンマークリーグFortuna Odense Volleyに入団。翌年に帰国後、デフバレーボール女子日本代表の監督に就任し、『2013年夏季デフリンピック』では銀メダル、2017年の同大会では金メダルを獲得した。

小林 哲平(こばやし てっぺい)
クレディセゾン 神奈川支社勤務。2016年入社後、営業計画に従事。聴覚障害を抱えながら、周囲の協力のもと業務の幅を広げている。デフスポーツの発展に向けて、競技団体をサポートする支社プロジェクトを担当。自身もデフ陸上競技選手。
「自分のほうがマイノリティー」という前提でコミュニケーションを始めました。
—デフバレーの女子日本代表監督に就任した当初は、聴覚障害の方々と接するのも初めて、しかも監督やコーチとしての指導経験もないという状態だったそうですね。

狩野:はい。でも、指導経験がなかったことで、聴覚障害のある選手に対しても、まっさらな気持ちで向き合うことができてよかったと思っています。選手たちも技術・戦術面で特定の色に染まっていなかったので、ゼロから一緒に新しいチームをつくり上げていく姿勢で臨めたのもよかったです。

狩野美雪さん
—聴覚障害を持つ選手たちのなかに、どう入っていったのでしょうか。当時、「このなかでは自分がマイノリティーだと自覚するようにしていた」とのことですね。

狩野:私に監督を依頼してくれた日本デフバレーボール協会は、選手はもちろん、運営スタッフも基本的に聴覚に障害を持つ方々で構成されています。聞こえる人のほうが少ない環境なので、バレーの競技指導は別として、普段の考え方や行動はみんなに合わせようと思ったんです。

私自身、デンマークのチームでプレーした経験もあったので、自分が少数派であることや、コミュニケーションが難しい環境に慣れていたことも大きいと思います。とにかくわからないことだらけでしたから、どんどん通訳さんや周りの人に質問していって。

—質問するにも、最初はいろいろ考えてしまいそうです。

狩野:もちろん、デフバレーだからと気負うことはなかったとはいえ、聴覚障害のある人と初めて話すときにはすごく気を遣いました。こんなことを聞いたら相手が気分を害するんじゃないかとか、失礼なんじゃないかとか……。でもおそるおそる「大丈夫?」と聞くと、ほとんどのことには「大丈夫です!」と返ってきて。よく言われるのは、障害があることは変えられないし、そのことはすでに一度乗り越えているから、どんとこい、という感じなんだそうです。

—障害が先天性か後天性かによってもさまざまな違いはあるでしょうが、チームのみなさんは、特に気にしていなかった、と。

狩野:そうですね。最初のころ変に気を遣っていたのは、逆に「特別視」しすぎていたのだな、と感じます。

今回のインタビューを企画した、クレディセゾン神奈川支社 小林哲平さん
デフバレーの指導を始めて、自分がプレー中いかに聴力に頼っていたか気づいたんです。
—競技そのものについてうかがいたいのですが、バレーボールとデフバレーの違いはどこにあると感じましたか。

狩野:デフバレーに関わるまで、バレーボールは目に頼って、つまりは視覚情報を主に使ってプレーするスポーツだと思っていました。そして聴覚はほとんどチームメイトとのコミュニケーションに使っている、と。しかし指導を始めてから、プレーそのものも、音に相当頼っていたということに気づきました。たとえば味方がサーブしたとき、目で見ていなくても、助走の足音や、「ボン」と手がボールに当たった「音」を合図に、自然と身体が動き出していたのだと。自分がこれまでやってきた「バレーボール」に関する気づきがたくさんありました。

トルコで行われた『2017年夏季デフリンピック』(提供 日本デフバレーボール協会)
—そうした音に頼らないプレーが、デフバレーには求められるわけですね。

狩野:バレーはボールの動きを止められないので、常に一瞬でプレーを判断しなくてはいけません。サッカーやバスケットボールなら、迷ったときにドリブルなどでキープして、次の動きを考えることができますが、バレーではそれが不可能なんです。そこで一瞬の判断の際には、プレー中の音や、チームメイトの声に頼る。「ストレート(のコースが)空いてるよ!」とか、「ブロック高いぞ!」「下がれ!」といったように、チームメイトからの情報が、判断を助けてくれるんです。

一方でデフバレーは、ヒントとなる音が聞こえない状態ですから、自分の視覚だけで決めるしかない。スパイカー(最前列で攻撃を担当する選手)なら、フェイントをかけるのか、打つにしてもどちらの方向に打つのか――すべての情報を自分の目から得て、そのうえで判断しているんですね。上手い選手は、本当によく「見て」いるなあ、と思います。
試合中、聞こえないとわかっていても、ベンチからつい大声を出してしまいます。
—即座の判断力も重要ですが、やはりそれだけでは限界もあります。そこで、フォーメーションなどの決まりごとを事前にかなり丁寧に共有するそうですね。

狩野:そうですね。特にディフェンスについては、「こっちからボールが来るときは、それぞれがこう動く」といったことを、あらかじめ決めておきます。バレーボールは、全員が位置についたセットプレーから始まりますから、その後のコンビネーションにはこういう種類があって……といったことも、図を使って説明します。

狩野さんがコンビネーションを説明するために使っている図
狩野:それでも、そこから先は瞬時の判断が必要とされます。特にセッター(トスを上げる選手。チームの司令塔としての役割を果たすことが多い)が、レフト、ライト、センターと3人いるスパイカーのうちの誰にトスを上げるかの判断は、本当に難しいんです……。私たちコーチ陣も、聞こえないことはわかっていながら、大事な場面ではつい「ライト! ライト!」とか大きな声を出してしまいます。聞こえていないはずの選手が自分で判断して、その通りのプレーになったときは、嬉しくて思わずベンチで拍手してしまいますね(笑)。その選手が試合をつかんでいるんだな、と感じる瞬間です。

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