93歳の現役助産師・坂本フジエが「産褥入院」で伝える、育児のイロハ

93歳の現役助産師・坂本フジエが「産褥入院」で伝える、育児のイロハ

2017年6月22日公開

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出産直後のお母さんをサポートする「産褥(さんじょく)入院」をご存知ですか? 「産後入院」「産後ケア入院」ともいい、昨今は産婦支援として積極的に取り入れている自治体もあるようです。

通常、出産後は3日から7日で退院になりますが、「産褥入院」は家に帰っても頼れる人がいない、出産のダメージから体力の回復が遅いなど、子育てや自分の身体に不安を持ったママが多く利用しています。つらいときに一人で頑張ろうとするのではなく、赤ちゃんのケアを学びながらゆっくり母体を休められる「産褥入院」という選択肢もあるのです。

この記事では、大正生まれの現役助産師・坂本フジエ先生のもとで産褥入院を体験した、クレディセゾン社員のレポートをお届けします。

文:栗田 宏美(CHIENOWA)
初めての出産で予期せぬトラブル。一人育児に大パニックを起こしてしまった
2016年3月13日の朝、私は和歌山県田辺市のある病院で、自然分娩で出産しました。あまりの痛さに呼吸を忘れてしまったことが原因で、母体に酸素が足りなくなり、子どもは「新生児一過性多呼吸」と「胎便吸引症候群」を併発。無事に出産できたものの、息子はすぐにNICU(新生児集中治療室)に移されて治療を受けることになりました。

痛む足腰をひきずって毎日決まった時間にNICUまで足を運び、保育器のなかでたくさんの管につながれたわが子を見ては涙し、早く回復することを一心不乱に祈っていました。5日間の入院生活は終止一人きりで、母子同室でわが子の世話をするほかのお母さんを尻目に、ひたすら毎日2時間おきに母乳をNICUに届けていました。そして、私が退院して3日後、医師の尽力もあり息子は回復。無事に退院となったのです。

NICUでの様子
しかし、実家に連れて帰るやいなや、火のついたように息子は大泣き。おっぱいをあげてもだめ、おむつを替えてもだめ……私は大パニックになりました。里帰り出産でしたが、両親は共働きのため昼間は一人。NICUにいた息子と触れ合えた時間は決して長くはなく、大泣きする息子の対応は未経験でした。NICUと違い、頼れる看護師さんもいません。ギャン泣きする新生児を前に、私は憔悴しきってしまいました。

そんなとき、中学校時代の友人が2年ほど前に「坂本助産所で産んだ。坂本先生はとても良かった」と話していたのを思い出したのです。
新米ママ、93歳の現役助産師「ばあちゃん先生」に救われた日
坂本フジエ先生は「ばあちゃん先生」として慕われる助産師で、和歌山にある坂本助産所の存在は地元でもとても有名でした。私が妊娠してすぐ、母が坂本先生の著書『大丈夫やで』を送ってくれていたこともあり、とっさに思い出した私は、必死の想いで坂本助産所に電話。状況を伝えたところ、坂本先生自らが「よっしゃよっしゃ。いますぐ連れといで」と仰ってくれました。また、出産した病院の看護師さんが「退院後に万が一、赤ちゃんのことで困ったら、思い切って産褥入院したほうがいい」と、教えてくれていたことも、私を後押ししたのです。

実家から車で10分くらい走って到着した坂本助産所。先生は早々に息子の足を触って言いました。

「足が冷やこうなっとる。赤ちゃんは、足冷たいと寝れんのや。あっためてあげようか。そしたら寝るんと違うか」

人肌程度のお湯を入れたペットボトルを、ぐずる息子の足もとに置き、布団をかけると、あら不思議。先生の言ったとおり、すやすやと寝てしまったではありませんか! すごい! と感動するとともに、坂本先生にいろんなことを教えてもらいたい願望がムクムク。

「産褥入院をさせてほしいんですけど、いいですか?」

坂本先生「うん、ほなおいで」

かくして私は坂本先生のもとにお世話になることになったのです。

助産所で、すやすや眠る息子
「お母さんは力抜いて、笑顔やで」。産褥入院で教えてもらったこと
私が入院したのは、坂本助産所の一室……といっても、よくある一軒家の畳の間で、親戚の家に遊びに来たような雰囲気。親族や友人の出入りも自由な、アットホームな環境で、気負わずにリラックスできました。4日間の産褥入院では、3食の食事つきで、身体を休養できたのはもちろん、「子育て」の学びがたくさんありました。

坂本先生が新米ママの私に教えてくれたなかから、特に心に残った言葉をご紹介します。

「赤ちゃん寝とるうちにお母さんも寝て、体力回復やで」
新生児は2時間おきにおっぱいを欲しがります。つまり、2時間以上連続で眠れないということ。赤ちゃんが起きているときは、授乳したり寝かしつけたりと、自分のことはほとんどできません。でも、友達にLINEも送りたいし、育児日記もつけたいし、テレビも見たいし、本も読みたい……。「息子が寝た! チャンスだー!」とばかりにスマホに手を伸ばした私に、先生の厳しいお言葉が! そう、体力回復も新米ママの仕事だったと反省。速やかに寝ました(笑)。

「栄養いっぱいのお乳を出すには、お母さんがちゃんと3食ごはんを食べなあかん」
悪露(出産後に子宮から出血すること)や腰痛で身体も辛く、産後はあまり食欲がなかったのですが、坂本助産所のご飯は3食どれも美味しくて栄養たっぷりでした。食事担当の田村さんがほかほかのお膳を部屋まで持って来てくれて、少し喋って戻っていく。すると坂本先生がやってきて、「赤ちゃんこっちで見とくさかい、ゆっくり食べて」と息子を預かってくれました。「母乳を出すためには、ちゃんと3食食べなあかん。バランスのええもん、しっかり食べよし」。そんなメッセージを感じました。

栄養たっぷりの食事
「抱き癖とか気にせんでもええ。0歳のときは、とにかく抱いて抱いて抱きしめたって」
息子は縦抱きが好きで、泣いたらすぐに抱っこしていましたが、「本当にこれでいいのかな?」と思ったことがありました。坂本先生に聞くと、「あのな、抱き癖つくんちゃうかて心配することないで。赤ちゃんのときは、抱いて抱いて抱きしめたって。これでもかっていうくらい愛情表現したって。そのほうが、自立するのも早いで」。その言葉に安心して、私は息子をたくさん抱っこしました。

「お母さんが、まずラクに力を抜き、笑顔でいること。赤ちゃんにもそれが伝わって、その子の性根を育てるで」
産褥入院3日目の夜、泣きわめくわが子に私の疲れもピークに。NICUですっかり哺乳瓶に慣れてしまった息子には、哺乳瓶のほうがいいらしく、直接母乳を与えることに苦労していました。そんな息子の様子に、つい「なんで飲んでくれないの!!」と叫んでしまいました……。泣きじゃくる私に、坂本先生は諭すように穏やかに言ってくれました。

「そんなにきばらんでええ。赤ちゃんにもイライラが伝わって、余計にうまくいかんで。まず、ラクに力を抜き。笑顔でね。ちゃんとお母さんが向き合ってあげることが、その子の性根を育てるんやで」

息子が寝たあと、「ちょっとお菓子食べよか」と誘ってくれたときにもらったおまんじゅうの美味しかったこと。じんわりと甘く、それでいて少しもくどくなく、心に染み入る味でした。

「お風呂もおむつ替えも、うまくキレイにやらんでもええ。楽しくやったらええんや」
沐浴の仕方がわからないので、やり方を教えてくださいと言ったときのこと。助産所の沐浴台で一緒に息子をお風呂に入れながら、お湯の温度(熱すぎるのはNG)や洗い方(耳に水が入らないように気をつけながら、乳児湿疹にならないようしっかり優しく洗う)の基本を説明してくれたあとに、坂本先生は言いました。

「でも、手順もやり方も、このとおりにせんでもええんやで。キレイにやらんでもええ。子育ては、『こうでなかったらアカン』と思ったらしんどい。ワイワイ楽しくやるのが一番や」

その言葉を指針に、里帰り中の息子のお風呂はベビーバスをリビングに置いて、家族総出でジャブジャブやるようになり、とても楽しい時間になりました。

実家で沐浴している様子
次世代の新米ママには、「一人で背負い込まないで」と伝えたい
助産所を退院してからも、坂本先生にはたくさん相談に乗ってもらいました。生後3か月のときに乳頭混乱(赤ちゃんが哺乳瓶でしか飲もうとしないこと)を起こした時期がありましたが、先生に電話をして励ましてもらったり。いまでも、帰省したら必ず家族で坂本先生を訪ねます。私の母親としての価値観は間違いなくあの経験でつくられ、いまもなお基盤であり指針です。

産褥入院というかたちで「人に頼る」ことは、新しい気づきや学びも得られて、自分も回復できる。自分の心身の健康が、赤ちゃんのためでもあるということを実感しました。

現代では核家族化が進み、30代である私の親世代も共働きだったりして、なかなか「家族みんなで子育て」は難しくなっています。出産は予定通りにいかないものだし、初めての赤ちゃんとの生活も何が起こるかわかりません。だからこそ、私は次世代の新米ママさんに伝えたいことがあります。「頑張れば何とかなる」と一人で背負い込まないでほしい。そして笑顔を忘れないでと。家族や他人に頼ることに、罪悪感を感じないでほしいんです。

出産直後はゆっくりと羽根を休めて、先の長い子育てライフに備えましょう。育児のプロを身近に見つけ、わからないことは何でも聞きましょう。そして何よりも、不安を解消するための一つの手段として、産褥入院という選択肢を心に留めておいてもらえたらと思います。

「ばあちゃん先生」こと、坂本フジエ先生(右)と、息子(左)
プロフィール

栗田 宏美(くりた ひろみ)
株式会社クレディセゾン プロモーション戦略グループ。1歳の男の子のママ。

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