元リクルートの校長・藤原和博さんに訊く【前編】「AI時代に必要な力の鍛え方」

元リクルートの校長・藤原和博さんに訊く【前編】「AI時代に必要な力の鍛え方」

2017年6月1日公開

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「リクルート出身の民間校長」として、2003年、杉並区立和田中学校長に就任した藤原和博さん。保守的な公立中学校を改革し、夜間の有料課外授業や大人も参加して行われる授業「よのなか科」を創設するなど、革新的な教育によって注目を集めました。そんな藤原さんは現在、奈良市立一条高校の校長に就任し、高校生たちがこれからの社会を生き抜くために必要な力を育んでいます。

いま人間が行っている仕事がAIやロボットに置き換わり、激変を迎えることが予想されるこれからの社会。今後、小学校でもプログラミングが必修科目として検討されるなど、社会人として必要とされるスキルは、これまでの時代とは様変わりしていきます。では、そんな時代に、親としては子どもたちにどんな力を授ければいいのでしょうか? 藤原さんは「情報編集力」を軸に、子どもたちの未来を描きました。

取材・文:萩原雄太 撮影:大畑陽子
プロフィール

藤原 和博(ふじはら かずひろ)
1955年東京都生まれ。奈良市立一条高等学校校長。東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。メディアファクトリーを立ち上げる。小中学校の教育改革に関わり、2003年東京都で民間人初の公立中学校長に就任。同校に、正解が一つではないテーマをブレストやディベートしながら思考力や判断力を鍛える「よのなか科」を創設。ベネッセ賞、博報賞、文部科学大臣賞などを受賞。著書に『10年後、君に仕事はあるのか?』(ダイヤモンド社)、『つなげる力 和田中の1000日』(文藝春秋)、宮台真司氏との共著に『よのなかのルール』(筑摩書房)など。
http://www.yononaka.net/
高校に「プログラミング倶楽部」を創設。才能のある子どもは徹底的にサポートしていく
—文部科学省が2020年に必修化を検討するなど、近年、プログラミング教育に対する注目が高まっています。藤原さんも著書で、「2020年代にはプログラミングの需要が増大する」との考えを述べており、一条高校でも「一条プログラミング倶楽部」を創設していますね。

藤原:はい。図書館の奥にプログラミング倶楽部のスペースを設置して、リクルートでウェブサービスを立ち上げたプロに来てもらって、金曜日と土曜日の2日間、生徒たちを指導してもらっています。といっても、プログラミング倶楽部の位置づけは「授業」「部活」の次の優先順位。いわば、ゼミのようなものです。「やりたい人は集まれ」というかたちで、生徒に呼びかけているんです。

—子どもたち全員ではなく、向いている生徒に特化してプログラミング教育をすべき、という考えなんですね。

藤原:ぼくとしては、プログラミングが必修科目となっても、おそらく小学校の先生ではしっかり教えることができず、正直かなり中途半端になるんじゃないか……と危惧しています。ぼくは、プログラミングは強制的に教えるものではないと考えているんです。やっぱり、向かない生徒もいますからね。

—一条プログラミング倶楽部には、どのような生徒たちが集まっていますか?

藤原:サイエンス部や文芸部に所属している生徒、あるいは部活に所属していない生徒など、どちらかというと外で活発に遊ぶようなタイプではない子どもたちが多いですね。また、男子ばかりでなく女子生徒の姿も見られます。

現在、プログラミング倶楽部でいちばん活躍している生徒はとても無口な子で、かつてはゲーム三昧の生活を送っていました。プログラミング倶楽部の活動を通じて、いまでは自分でゲームをつくることに興味を示しています。講師がいないときにも、図書館の奥で黙々とプログラミングをし続けているんです。

—まさに、プログラミングが生徒の才能を開花させた好例ですね!

藤原:プログラミング倶楽部の基本的な方針は、子どもの持っている才能を突出させてあげること。プログラミングが好きで、向いている子には、中途半端ではなく徹底的にその才能をサポートしようと思います。

—その背景には、未来の優秀なプログラマーを育てたいという思いがあるのでしょうか?

藤原:そう。プログラミングという仕事は、とても根気が必要な仕事です。とにかく諦めずに、粘り強く立ち向かっていかなければなりません。ちょっと授業で習っただけ、あるいはちょっと興味を持ったから、という程度では、優秀なプログラマーになることは難しいんです。誰もがなれるものではない。

一方、たとえばアスペルガー症候群(知的障害を伴わない自閉症のことで、高機能自閉症とも呼ばれる)のような軽度発達障害の子どもたちは、プログラミングによって天才化することも考えられます。マイクロソフトを設立したビル・ゲイツも、自らアスペルガーであることを公表していますよね。いままで、学習に障害があると思われていた子どもが、プログラミングによってその才能を開花させる可能性があるんですよ。

AIやロボットの普及により、人間が行わなくなる仕事・残り続ける仕事とは?
—社会的にプログラミングが注目されている背景には、今後、AIの普及などによって、これまで人間が行ってきた仕事が失われてしまうのではないか、という危機感がありますよね。

藤原:社会がAIの時代に突入することで、2020年以降、失われる仕事は多いでしょう。ただ、その一方で、データマイニングや統計解析、プログラミングといった新たな仕事が膨大に発生してくる。なくなる仕事がある一方で、そのような新たな仕事が生み出され、雇用の総量としてはあまり変化しないのではないかと考えています。

—今後なくなってしまう仕事と、なくならない仕事にはどのような特徴があるのでしょうか?

藤原:オックスフォード大学が行った調査によれば、今後なくなってしまいそうな仕事の筆頭に挙げられているのは、電車の運転手です。東京でも、すでにゆりかもめが無人で走っているし、これは容易に想像することができますよね。

では、車掌はどうでしょうか? お客さんが病気になった、気分が悪くなってしまったなど、車掌は予測できない突発的な事態に対応しています。この仕事をAIが代替できるでしょうか? できるとしても、まだしばらくは、膨大なコストが必要となるでしょう。少なくともこの10年を考えれば、機械よりも人間が対応するコストのほうが安いはずです。

—想定外の事態に対応することは、AIにはまだ難しいんですね。

藤原:指先の感覚や人肌の温もり、皮膚感覚というのも、ロボットにはまだ真似することができない部分。これだけいろいろなマッサージ機がつくられていても、街中にはたくさんのマッサージ店が営業していますよね。似たように、「保育」「看護」「介護」なども、予測が難しくて、人の温もりが重要な仕事です。ヒューマンウェア(人間的要素)が必要な仕事は、今後もしばらくは残っていくでしょうね。

—では、知恵をしぼるような仕事についてはどうでしょうか?

藤原:たとえば、編集者という仕事について考えてみると、単純な文章の書き起こしなどはAIに取って代わられてしまうかもしれません。しかし、彼らのやっている仕事の本質は、全体を編集して一つの価値あるものにまとめ上げていくこと。そこは、人間が得意な領域として残されていくのではないかと思います。

—安心しました(笑)。

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