人口減少時代に2万5千人増。子育て世帯と歩んだ流山市の大胆なまちづくり

人口減少時代に2万5千人増。子育て世帯と歩んだ流山市の大胆なまちづくり

2017年2月3日公開

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少子高齢化のなかで人口増を実現するには、「子育て世代」に選んでもらえるまちづくりをするしかない
—2003年に流山市長に就任されて以降、4期に渡って「流山の可能性を引き出すまちづくり」を進められ、人口は2万5,000人以上も増加しました。そのなかでも大きな注目を浴びたのが、「母になるなら、流山市。」のキャッチコピーを中心としたPR活動だったと思います。

井崎:おかげさまで取材もたくさん受けさせていただき、驚くほど大きなPR効果につながりました。ただPRに注目が集まりがちですが、いまの世の中、PRだけで人口が増えることはありません。「住みやすいまちづくり」の環境が現実化してはじめて、PRと良い連動効果が生まれたのだと思います。

「母になるなら、流山市。」PRイメージ
—ある程度「まちづくり」がかたちになってから、PRをスタートされたんですね。具体的にはどのような順序で市政を進められたのでしょうか。

井崎:やはり、いきなりすべては変えられません。まずは税収の52%を占めるほど膨大だった人件費の削減(現在は34%)やコスト面の効率化。職員の責任の所在をはっきりさせて、「市民に役立つ」ことを徹底するための意識改革。民間では当たり前のことばかりですが、行政組織として最低限のかたちを作るところから始まりました。

そのうえで、流山市の目標を「共働きの子育て世代に選ばれる街」にすることを決め、まちづくりをスタートさせました。その背景には、当時の流山市が直面していた2つの大きな危機がありました。

—2つの危機ですか?

井崎:ひとつは、日本全体の問題でもある急激な少子高齢化の進行。特に流山市のような団塊の世代の割合がさらに多い郊外都市にとってはより深刻な問題です。もうひとつはつくばエクスプレス(TX)の開業にともなう、大規模な沿線区画整理事業の問題です。

流山市風景 つくばエクスプレス(TX)流山おおたかの森駅前
—TXの開業は、流山市と都心部を結ぶ主要な交通網になるため、まれに見る大きなチャンスだったと思うのですが、何が問題になるのでしょうか?

井崎:TXの沿線区画整理事業は施工面積が非常に広いんです。団塊の世代向けに開発された、日本最大規模の多摩ニュータウン(1971年、第1次入居開始)の面積は約2,884ヘクタールですが、TX沿線区画整理事業は約3,270ヘクタールもあります。そのうち流山市の施工面積は、市全域の約18%にあたる約627ヘクタール。その事業費のうち市の負担額は735億円にものぼります。

—つまり、ただでさえ少子高齢化で人口が減っているなか、大規模な開発の負担金を完済するためには、なんとしてでも流山市の大量の保留地を完売し、結果として人口を増やさなければならない状況に追い込まれていたわけですね。

井崎:はい、もし保留地が売れ残って人口が増えなければ市の財政危機に陥る可能性もありうる状況でした。TXの開業は予定から5年遅れ、日本の人口が初めて減少した2005年に開業しました。しかも当然ながら、TX沿線の開発事業はライバルの市町村がひしめき合っています。当時の流山市の知名度は極端に低く、目指す街のイメージも白紙の状態で、造成工事だけが進んでいました。そんななかで長期的に人口を増やすには、子育てファミリー世帯に沿線で一番住んでみたい街として選んでいただけるようにする必要がありました。

流山市風景 東深井エリアの街並み
—しかも万が一、開発した地域が売れ残ってしまった場合、街全体の資産価値が落ちるなどのリスクもあったわけですね。

井崎:まさに先ほどの「デベロップメント・オーソリティ」の話と同じです。いくら大規模な開発を進めたところで、「いかに街の資産価値を高めていくのか?」「どういう街にしていきたいのか?」という長期的な視点が抜けていてはまちづくりが漂流してしまいます。

そこで、流山市のマーケティングとブランディングを早急に進めなければと、民間からマーケティング経験のある職員を募集し、2004年には日本の基礎自治体(市町村、特別区)で初のマーケティング課を新設しました。現在、マーケティング課には5名の職員が在籍していますが、うち3名は民間から採用したプロのマーケターです。

—マーケティングを進めるなかで、流山市の価値や目指すべき方向性は明確に見えてきましたか?

井崎:流山市はTXの開業により、都心まで20分台という交通の便の良さを得ただけでなく、従来から自然も豊かで民度も高いというポテンシャルの高さを秘めていました。

そこで首都圏という市場に対する流山市のポジショニング(位置づけ)を行い、目指すべきブランドイメージを「都心から一番近い森の街」に設定し、マーケティング戦略を策定しました。そのなかで見えてきた流山市のメインターゲットが「共働きの子育て世代」だったわけです。

人口減少時代には、規制強化による「質」にこだわった付加価値の高いまちづくりが求められる
—「資産価値を上げるまちづくり」という意味では、具体的にどのようなことを行われたのでしょうか?

井崎:住宅地開発によって失われがちな緑を並木道やマンションの緑化などでカバーしつつ、周辺の森とつなげるグリーンチェーン戦略に取り組みました。近年は規制緩和によって開発を促進するケースが多く見られますが、人口減少時代に不動産価値を維持するためには、規制強化による質にこだわった付加価値の高いまちづくりが求められていると思います。

また行政サービスの充実も重要です。それも給付金のようにお金をばらまくのではなく、メインターゲットである「共働きの子育て世代」が本当に求めるサービスをリサーチし、他の街とは明らかに違う環境を作ることを目指しました。たとえば、保育園、学童保育所の充実や、通勤途中の駅から保育園への送迎が可能になる駅前送迎保育ステーションの設置などがこれにあたります。

その他にも市政への市民参加の機会を増やすなどのさまざまな施策を行ったことで、流山市のイメージアップ、ブランディングの形成につながったと思います。人口も、子どもと30~40代までの子育て世代の増加がめざましく、私たちが目指した「共働きの子育て世代に選ばれる街にする」マーケティングが成功しつつあると感じています。

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