専門家が語る介護と仕事の両立法。「自分を犠牲にしない」ことが最大のコツ

専門家が語る介護と仕事の両立法。「自分を犠牲にしない」ことが最大のコツ

2019年3月8日公開

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過去を語り合えなくなる前に、親の価値観を理解しておく
——酒井さんの考える「質のいい介護」とはどんなものでしょうか?

酒井:私は、介護とは「心身になんらかのハンデを抱えた人に対して、生きていてよかったと感じられる瞬間を創造し届けること」だと考えています。手足が不自由になっても、言葉がうまく発せられなくなっても、また認知症になったとしても、優れた介護は、介護をされる人に対して「嬉しい」「楽しい」「面白い」瞬間を確実に届けることができます。

——では、質の高い介護を実現するために必要なことは何ですか?

酒井:いろいろあるのですが、最も大事なのは「親の価値観を理解すること」です。じつは、子どもというのは、親のことをほとんど知りません。

たとえば、あなたは親の中高生時代の部活動を知っていますか? その部活動の同窓会の有無は? あなたが親元を離れてからの親の人生を知っていますか? 親が楽しみにしている行事は? いきつけのレストランの場所は? 親の親友の連絡先や、主治医の名前はどうですか?

——たしかに、そう言われると親について知らないことが多いですね。

酒井:これは決して子世代を責めているわけではなく、多くの人が似たような状況ということです。しかし、こうした親に関することを知らずに優れた介護ができるでしょうか。

親についてよく理解していないところから介護が始まってしまえば、うまくいかないのは当然です。価値観に合わない間違った選択は介護を受ける人のストレスにつながり、やがて喧嘩になり、最悪の場合は虐待へと至ってしまうのです。実際、プロの介護職よりも家族による虐待のほうがはるかに多く、その確率は100倍以上であるということを認識しておく必要があります。

もし親が認知症になってしまえば、心の内を正しく理解する機会もほとんど失われてしまいます。せめて認知症になる前に、親の理解を進めておくべきです。2025年には、認知症に苦しむ人は700万人、軽度の認知障害(MCI)まで含めると1,300万人にもなるといわれています。決して、他人事ではないのです。
介護は仕事と同じ。人脈の広狭で質が決まる
——将来、親に介護が必要になることを見越して、いまから準備しておけることはありますか?

酒井:やはり、何かあったときにすぐに相談できる介護のプロと知り合っておくことだと思います。それも、できるだけ多数のプロとです。プロにも技術の差はありますから、自分たちに合わないと思ったら「入れ替え」ができるような体制をつくっておくことが大事なのです。仕事と同じで、介護も人脈がモノを言いますから。

——しかし、実際に介護が始まっていない段階では、どうやって知り合いをつくればいいのでしょうか?

酒井:手前味噌ですが、そのためにリクシスを立ち上げたのです。介護中の方はもちろん、まだ介護がはじまっていない方の介護離職リスクを定期的に測定し、その度合いに合わせて個別性の高い支援を行っています。本当に必要であれば、弊社に介護を丸ごと依頼していただくことも可能です。

また、ご両親が住む家の近くにある地域包括支援センターに相談してみるのもいいと思います。帰省のついでに訪ねて、名刺交換をしてみてください。そして、「離れて暮らす親が高齢で、いつ要介護になるか不安なので、何かあったら相談に乗ってください」と伝えておくといいでしょう。あちらもプロなので、地域を周回する際にご両親の元を訪ねてくれるようにもなります。

そこでスタッフが、子どもには恥ずかしくて話さないようなプライベートなことも聞き出してくれるかもしれません。「お母さん、いまじつはアイドルの誰々にハマっているみたいですよ」とかね(笑)。そういう細かいことまで知っておけば、仮に介護が必要になったときでも、気晴らしにコンサートに連れていってあげたり、ライブDVDをプレゼントしたりすることもできますよね。

——それも「質の高い介護」に含まれるわけですね。

酒井:介護というと「トイレや入浴、食事の世話をすること」だととらえられがちですが、それは専門性が高いプロに任せ、子どもは子どもにしかできないことに注力すべきだと思います。一緒にコンサートに行って思い出をつくる、孫の顔を見せに行くなど、何でもいいんです。その時間を捻出するためにも、プロの介護サポートを受けましょう。

実際に親の介護をしている家族が集まる「家族会」も地域にはあり、そこでは評判のいいケアマネジャーや介護事業所についての意見交換などもされています。実際に介護が始まったら、参加してみるのもいいと思います。
まずは粘り強く「いまの親」と向き合うことが大切
——介護と仕事を両立するには、初期段階で「質の高い介護」ができる体制を整えること。そのために親の価値観を知り、前もって準備しておくことが大事なのですね。しかし、いざ親と語り合おうとしても、話の切り出し方がわからないという人もいるかと思います。どうすればスムーズに話せるのでしょうか?

酒井:会話の糸口としてオススメなのは、写真アルバムの整理です。「家族の思い出をデジタル化したいから、一緒に写真を整理しよう」と言えばスムーズに切り出せると思います。写真を見ながら、家族の思い出話や自分が生まれる前の話、いま考えていることなどを聞いていけば、親の人生が多少なりとも見えてくるのではないでしょうか。

皆さんが成長しているように、親もあなたが独立してからの数十年で成長し、考え方も変わっています。昔は嫌いだったものが好きになっていたり、思想が別人のように変化していたりすることも珍しくありません。

ですから、あらためて「いまの親」と向き合うことが大事なのです。ときには、説教をされることもあるでしょう。でも、説教させてやるのも最後の親孝行だと思って、ぜひ粘り強くコミュニケーションをとってみてください。

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