マルチリンガル教育はわが子に必要?③身近なもので複数言語を習得。親ができる環境づくりとは

マルチリンガル教育はわが子に必要?③身近なもので複数言語を習得。親ができる環境づくりとは

2017年10月19日公開

Bu facebook
Bu twitter
いよいよ日本にもグローバル化の波が本格的に押し寄せている現在、わが子を海外でも活躍できる人に育てなければと考えるママやパパも多いのではないでしょうか? 何語をいつからどのように学ばせればいいのか、そもそも日本で暮らしていて外国語は身につくのかなど、子どもの将来に関わる不安は尽きません。

そこで、本連載では自身がオランダ語、英語、日本語のマルチリンガルでありつつ、「マルチリンガル先進国」であるオランダに暮らし、ライデン大学の日本語専任講師を務める山本絵美さんに「子どものマルチリンガル教育」について迫ります。

今回は、日本にいても、親が家庭などでできる、子どもの語学のための環境づくりについてご寄稿いただきました。

執筆:山本絵美 編集:岡徳之 撮影:原田篤
トーマス好きなら英語。ムーミン好きならフィンランド語。子どもの興味から言語を選ぶ
親として、「子どもには英語を学ばせたい」「中国語を学ばせたい」などの希望があると思うのですが、習得する言語は子どもに選ばせることをおすすめします。親の目的や都合を子どもに押しつけるのは、「勉」を「強」いる苦行以外のなにものでもなく、それでは身につくものも身につきません。

また、「好きこそ物の上手なれ」ということわざがありますが、語学はとくにそれが顕著です。強制ではなく、子どもの純粋な興味や関心に言語を結びつけられれば、ぐんと上達するはず。

では、どうやって子どもに言語を選ばせるかですが、「まずはいろんな言語を、少しずつ学ばせてみる」のがいいと思います。そして優先するべきは「子どもの興味」です。

たとえば、絵本や音楽が好きで、ドイツ生まれのグリム童話『ブレーメンの音楽隊』がお気に入りのお子さんなら、ドイツ語を習わせてみてもいいですし、くまのプーさんやピーターラビットや機関車トーマスが好きなら英語、ムーミンならフィンランド語、バーバ・パパならフランス語と、いろいろあります。子どもにとって身近な存在の国や言葉から選ぶのも、きっかけをつくる一つになります。

山本絵美さん
子どもは人とのコミュニケーションのなかで言語を習得するので、できれば定期的に語学教室に通わせられるといいと思います。まずは体験レッスンで子どもが楽しそうかどうか、表情や教室での様子などを確認してみてください。先生が好き、教室のお友だちが好きというのも、継続するには重要なポイントです。

そして、だいたい3か月後を目安にその言語への好奇心が持続しているか、興味や関心が以前よりも高まっているかを見て、継続の判断をしてください。同時に2言語だけでなく3言語以上を学んでも、混乱することはありません。なぜなら、子どもはその場面と人を見て、使う言語を使い分けられるからです。フランス語の教室ではみんなと一緒にフランス語を歌って、英語の教室では英語でおしゃべりするのが当たり前にできるようになります。

ただ、隣のお子さんにぴったりでも、うちの子には不向きという可能性も十分あります。いまは『国際子どもキャンプ』のような外国人の子どもと触れ合える国内イベントも多いですし、インターナショナルスクールの学園祭は一般公開していることも多いので、足を運んでみるのはいかがでしょうか。そこで仲よくなった子の言語や、興味を持った国の言葉を学ばせるのもいいですね。
オランダの親子は身近なものをうまく利用して英語を学んでいる
ちなみに私が暮らしているオランダはマルチリンガル教育先進国にもかかわらず、子どもの語学にお金をかけていません。身のまわりにある「無料」のものを自然に使っているのです。

イギリスのテレビ局『BBC』の子ども向け英語番組を見て育った人は多いですし、無料の英語学習サイトもうまく使っています。このような方法で英語を習得できるのは、オランダ語と英語の距離が近いことも影響しています。

『BBC』で放映していた『プラネット・ダイナソー』はDVDで販売されていますので、かっこいいものに憧れる男の子にはおすすめです。有名な『セサミストリート』のほか、ディズニーのアニメ映画やジブリ映画を別の言語の吹き替えで観てみるのもおもしろいです。余談ですが、ディズニーの『白雪姫』のなかに出てくる「ハイホー」の歌、日本語訳の歌詞は「仕事が好き」ですが、英語、スウェーデン語は「うちへ帰ろう」となり、オランダ語は「タダで得られるものはない(だから、仕方なく働く)」になっています。こういう文化の違いがわかるのも複数言語に触れているからこそではないでしょうか。

男の子におすすめの『プラネット・ダイナソー』。※編集部私物

日本でも人気のセサミストリートのDVD。※編集部私物
日本語のなかのマルチリンガル要素に目を向けるのもおもしろいですよ。漢字は中国からの輸入ですし、カルタやカステラはもともとポルトガル語、ランドセルやオルゴールはオランダ語、イクラはロシア語に由来しています。親御さんが事前に調べておけば「これは、もともと何語だったでしょう?」というクイズにして楽しむこともできます。

最近は外国人の観光客も増えていますので、親子で観光バスに乗ってみるのも手です。外国人を遠巻きに眺めるのではなく、親御さんもちょっとだけ勇気を出して、「どこから来たんですか?」などと話しかけてみてください。または、街中でガイドブックを広げて困っている様子なら、「手伝いましょうか?」と助け舟を出すのは「おもてなし」でもあります。文法がわからなくても、単語を並べるだけで十分通じるはずです。
複数の言語を学ぶ機会は、親が積極的につくってあげてほしい
そうやって親が積極的に外国語を使う様子は、お子さんにいい影響を与えます。「お国の言葉で『ありがとう』ってなんて言うんですか?」といろいろな外国人に聞けば、マルチリンガル育成の第一歩になります。発音に関しては、やはりネイティブではない親御さんが教えるよりも、ネイティブスピーカーが話すCDやDVDなどを活用したほうがよいでしょう。簡単な単語なら、Google翻訳の発音機能を使うのもおすすめです。

そして、上手に発音できたときには、すかさず「○○語、おもしろいね。もっと話せるようになりたい?」と切り込めば、二歩、三歩の前進につながります。

子どもが自分で言葉選びのきっかけを見つけるのは難しいので、親御さんが積極的にその機会をつくってあげてください。そのあとは、あくまでも「自然体」で、子どもの興味を最優先しながら「いろんな言葉を試してみる」ことから始めるのがよいと思います。

子どもは親から褒められることで挑戦するエネルギーが湧き出る
では、いつからマルチリンガル教育を始めるべきか? まずお伝えしておきたいのは、「何歳までに始めないと、言葉は身につかない」というのは嘘だということです。私も高校生まで英語がまったく話せませんでしたが、いまは英語で学生や同僚の先生たちと難なくやりとりしています。

お子さんを将来マルチリンガルに育てたいと考えていらっしゃるなら、小学生まではしっかり母語を育てることが肝要です。連載2回目でも少し触れましたが、小さいうちに外国語を学んでいると母語がおろそかになるのではと不安に思う方もいらっしゃいますが、週1、2回の外国語レッスンを受ける程度でしたら、母語にはほとんど影響もなく、なんの問題もありません。

しかし子どもは、習った表現や言葉はすぐに覚えますが、使わなければすぐに忘れてしまいます。だからこそ、お子さん自身の興味が重要になってきます。毎日少しでもいいので、その言語に触れることが必要です。家庭で習ったことを復習するだけでなく、その言語で歌われる音楽を聴く、映画を見る、手紙を書いてみるなど、身近なものをどんどん利用してみてください。きっと、簡単な会話ならできるようになるでしょう。

どのレベルを「バイリンガル」「マルチリンガル」と呼ぶかは、明確な定義がないのですが、私は初歩レベル(旅行先で困らない程度)を習得していれば、複数の言語を身につけた人としてマルチリンガルの恩恵は十分あると思っています。

そして、お子さんの気持ちに共感したり、努力の過程を褒めたりすることも忘れないでください。親に話を聞いてもらえる、認めてもらえているという安心感は子どもの自己肯定感にもつながります。

自分はできる、がんばれるという気持ちがあることが、挑戦するエネルギーになり、新しい言語を学ぶ力にもなります。そしてひいては、マルチリンガルな言語を習得し、社会で活躍する人材となり得るのです。
親自身が外国語への興味を持ち、行動で示すことが大切
「自分は外国語に興味がなかったけど、せめて子どもには……」と考えている親御さんは多いかもしれません。しかし、親などの身近な人が外国語への興味・関心を持っているほうが、子どもは語学に対する意欲を高く保ちやすいのは事実です。

親が外国語や海外の文化に興味を示している姿は、確実に子どもに影響を与えます。「外国語っておもしろいんだな」「なるほど、わからないことはどんどん辞書で調べればいいのか」と、親の背中を見て育つ部分はとても大きいのです。
子どもは「学ぶ」「わかる」が楽しくてたまらない生き物
連載の最後になりましたが、子どもって「学ぶ」「わかる!」のが楽しくてたまらない生き物なのです。その環境をつくるのが親の役目。わかることの楽しさを知ると、子どもはどんどん勉強します。街を歩いていても英語が目に飛び込んでくるようになります。そしていつか、学習自体が目的になる日がやってきます。親も、あまり肩ひじ張らず、少し遊びがあるくらいがちょうどいいのです。

一生懸命になりすぎると、視野がせまくなってしまいます。インターナショナルスクールに通わせられない、語学教室が子どもに合わないなら、「こんな方法もある」と、創造力や行動力を働かせて「いまできること」に目を向ける。そうやって、子どもと一緒にマルチリンガル教育を楽しむよう心がけてみてください。

山本さん共著のマルチリンガルの子どものための日本語教科書『おひさま』(試用版)
プロフィール

山本絵美(やまもと えみ)
オランダ、ライデン大学日本学科の日本語専任講師。早稲田大学大学院日本語教育研究科の博士課程にも在籍。研究テーマは「海外在住のマルチリンガルの子どもたちの言語教育」。著書に、マルチリンガルの子どもが楽しく学べる日本語教科書『おひさま』(くろしお出版)が2017年12月刊行予定。オンラインの教育セミナーも随時開催。お問い合わせはohisama.project.nl@gmail.comまで。
『おひさま』のFacebookページ https://www.facebook.com/おひさま-1731025060461592/

関連する記事

この記事のキーワード

RANKING
YESTERDAY

WHAT'S CHIENOWA?

staff_pickup