「育児に参加しない男性は損」池谷裕二さんに聞く、脳研究者の楽しい子育て術

「育児に参加しない男性は損」池谷裕二さんに聞く、脳研究者の楽しい子育て術

2017年4月17日公開

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東京大学薬学部教授であり、長年にわたって脳の研究を行ってきた池谷裕二さん。専門的で難しい分野でありながら、『単純な脳、複雑な「私」』(講談社)、『脳には妙なクセがある』(扶桑社)など数々の入門書を上梓し、脳という未知の器官について一般の人々にわかりやすく解き明かしています。

そんな池谷さんは現在、二人の子どものパパとして育児の真っ最中。研究や執筆などで忙しい日々を過ごすなか、どんなふうにお子さんと関わっているのでしょうか。脳研究者ならではの育児の秘訣とは? 子どもの人生を予見する「マシュマロ・テスト」から、育児に伴うストレスの回避法、そして、信頼関係のカギを握るホルモン「オキシトシン」の存在まで、「脳と子育て」をテーマにお話しいただきました。

取材・文:萩原雄太 撮影:豊島望
プロフィール

池谷 裕二(いけがや ゆうじ)
1970年静岡県生まれ。薬学博士、脳研究者。神経科学および薬理学を専門とする。30代で100以上の論文を発表。コロンビア大学客員研究員を経て、2014年より東京大学薬学部教授。文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞などを受賞。『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』(ともに講談社)、『脳はなにかと言い訳する』(新潮社)など、著書多数。
http://ikegaya.jp/
ポジティブな表現をするのがモットー。否定的な暗示は能力低下につながる
ー池谷さんは、お子さんが二人いらっしゃるんですよね。

池谷:二人とも女の子で、下の子は1歳、上の子は今日4歳の誕生日を迎えたんですよ。

ーおめでとうございます! 池谷さんは育児雑誌『月刊クーヨン』(クレヨンハウス)で連載を持っておられますが、やはり育児には積極的に参加しているのでしょうか?

池谷:はい。子どもが生まれてからは夜に飲み歩いたりせず、早く帰宅するようにしています。ただ、出張も多く、育児に割く絶対的な時間が少なくて、自分としてはまだまだ足りていないと思うんです。これでは、妻と対等と言えないですね。

ーやはり、育児に関わらなければいけないという気持ちがあるんですね。

池谷:「いけない」という義務感からではなく、楽しいからやりたいんですよね。育児に参加していない男性は、損をしていると思いますよ。

ー考えてみれば、子育てって特別な体験ですよね。1歳と4歳というと目が離せない時期かと思いますが、池谷さんは育児で何か工夫していることはありますか?

池谷:「できない」という言葉や、否定的な言葉は使わないことをモットーとしています。たとえば、「これはできないよ」ではなく「大きくなったらできるようになるよ」、「片づけなかったら遊ばせないよ」ではなく「片づけて、また遊ぼうね」と、言い換えるようにしているんです。

ーそこには、どんな意図があるのでしょうか?

池谷:大人の場合、ネガティブな言葉の影響力は証明されています。一般的に、「年をとると記憶力が低下する」と思われていますよね。でもこれは、脳の器質的な問題ではなくて、自己暗示の問題なんです。

高齢者向けの記憶テストの実験があるのですが、事前に「心理テストをします」と嘘をついてテストした場合と、「記憶テストをします」と言った場合では、後者のほうが成績が低いという結果が出ています。記憶テストは能力を試されるため、プレッシャーがかかる。ネガティブな暗示によって、自分の能力を下げてしまっているんです。

ー自己暗示が結果を左右してしまうのですね。

池谷:ボクシングのセコンドだって、「ダメだ」「勝てない」とは言いませんよね。スポーツの世界では、ポジティブな言葉がけは当たり前です。しかし、私たちは日常の世界で、すぐ否定的になってしまう。とくに子育ての場はイライラしやすく、ついネガティブな言葉を使ってしまいがちです。

先ほどの記憶テストの実験は、子どもに関して証明されているわけではありませんが、私としては、半分は科学的な見地から、半分は信念として、ポジティブな言葉で子どもに伝えるよう心がけています。

池谷さんの著書や連載雑誌の一部。糸井重里さんとの共著『海馬―脳は疲れない』(新潮社)は、35万部以上刊行のロングセラー。
自制心を測る「マシュマロ・テスト」で、子どもの将来を占える!?
ーほかにも工夫されていることはありますか?

池谷:「マシュマロ・テスト」という実験をご存じでしょうか。子どもの前にマシュマロを置き、「15分、食べずに我慢できたらもう1個あげるよ」と言って、一人きりにするんです。スタンフォード大学で考えられた発達心理学の実験なのですが、子どもたちが成功する、つまり15分間、我慢できる確率はおよそ20%。4歳のときにこの試験に合格するかどうかが、その後の人生を占うと言えるくらい、影響力の大きいテストです。

マシュマロ・テストに成功した子どもは成長しても肥満が少なく、ドラッグに手を出す割合も低い。また、出世が早く、学力試験のスコアも他に比べて15%程度高いという結果が出ています。

ー4歳の時点で自制心を働かせられるかどうかが、その後の人生に大きな影響を与えるということでしょうか?

池谷:自制心があれば、ケーキを目の前にしても太りたくないから食べないという選択ができるし、いま遊んだら将来困ってしまうからと、自発的に勉強するようになります。そういった能力は、4歳くらいまでの間に身につくもの。状況を認識し、我慢する力を養うことが必要なんです。

ーつまり、親の教育によって自制心は育てられるんですね。

池谷:15分って、子どもにとってはかなり長い時間です。普通の子どもは食べてしまいます。成功する子どもたちは、マシュマロを見ないようにしたり、隠したりして、工夫するんです。彼らは、自分が我慢できない存在であることに気づいていて、そのためにどうすればいいかという先手を打つことができているんですね。

そういった技術を教えることが、幼児教育には必要です。このマシュマロ・テストに合格するような子どもに育てるために、我慢することや、そのためにはどうやって工夫すればいいかということを、私はふだんから子どもたちに教えるようにしています。

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