マルチリンガル教育はわが子に必要?② 気負わずに複数言語に触れて「対応力」を育てる

マルチリンガル教育はわが子に必要?② 気負わずに複数言語に触れて「対応力」を育てる

2017年9月22日公開

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いよいよ日本にもグローバル化の波が本格的に押し寄せている現在、わが子を海外でも活躍できる人に育てなければと考えるママやパパも多いのではないでしょうか? 何語をいつからどのように学ばせればいいのか、そもそも日本で暮らしていて外国語は身につくのかなど、子どもの将来に関わる不安は尽きません。

そこで、本連載では、自身がオランダ語、英語、日本語のマルチリンガルでありつつ、「マルチリンガル先進国」のオランダに暮らし、ライデン大学の日本語専任講師を務める山本絵美さんに「子どものマルチリンガル教育」についてお話をうかがいます。

「マルチリンガルの子は、結局どの言語も完全にマスターできず、中途半端になってしまうのではないか?」という疑問など、多くの親がマルチリンガル教育について抱く「心配ごと」について寄稿いただきました。

文:山本絵美 編集:岡徳之 撮影:原田篤
言語を学ぶ際に、「読む・書く・聞く・話す」を、全部できなくていい
いまの時代、新しい価値観や考え方がどんどん登場し、その情報はいくらでも手に入るがゆえに、「結局子どもに何語をどう教えたらいいのか、正解を知りたい」と迷ってしまう親御さんは多いでしょう。

今回は、世界のマルチリンガル教育の現状をお伝えするとともに、他言語習得のメリットや、グローバル社会でマルチリンガルな子どもがどのように活躍をするのかについてお話しいたします。

以前は「アメリカ人のように英語を、フランス人のようにフランス語を」といった、ネイティブの言葉が唯一絶対の「正しい言語」で、「読む・書く・聞く・話す」をすべてマスターしてから次の言語を学ばなければいけないという考え方がマルチリンガル教育の主流でした。

しかし、最近のマルチリンガル教育のトレンドは、言語について「読む・書く・聞く・話す」すべてをマスターしている必要はないという考え方になってきています。その人の興味や必要性などに合わせて、本を読むなら「読むこと」に、現地の人と会話するなら「聞く・話す」を中心に習得しても、十分なマルチリンガル教育だと言われるようになりました。

山本絵美さん
また、シンガポールの英語(シングリッシュ)やインドの英語(ヒングリッシュ)など、これまでは「亜流」とされてきた言葉がれっきとした一つの「言語」として世の中で認められてきています。

これらは、言語の多様性が認められるようになり、「世界にはいろいろな言語があること」に価値が置かれるようになったからです。1996年には、世界中から集まった有識者によって「世界言語権宣言」も採択されています。人権の観点から、自分たちの言語を使用する権利を守ろうという動きから生まれたのです。

多様性を受け入れる世の中になったいまこそ、「すべてできなくてもいい」「完璧じゃなくていい」という気持ちでマルチリンガル教育に取り組むことが大切なのです。まずは親御さんが外国語に対して気負わずに向き合うこと。そして子どもには「できるところから始めてみようね」と、他言語に対して前向きになれる言葉をかけてあげてください。
これからのグローバル社会で求められる「サバイバル的コミュニケーション力」が得られる
前回の記事では、子どもをマルチリンガルに育てることで、「創造性」「社会性」「寛容さ」が培われるというお話をしました。ほかにも、これからのグローバル社会を生き抜くうえでとても大切な「サバイバル的コミュニケーション力」が育まれるのも、マルチリンガルな子どものメリットです。

いまの子どもたちが大きくなるころには、ますますグローバル化が進み、現在よりももっと多様な社会になっているでしょう。また、人工知能などの発達により、一人で行う単純作業よりも、創造的で、他者との協同が求められるような仕事が増えるかもしれません。

多くの企業が新入社員に求める能力の一つに「コミュニケーション力」があります。しかし、少子化で物質的にめぐまれていて、すべてを言葉にしなくても通じてしまう日本文化のなかでそれを養うのは簡単なことではありません。

グローバル社会で絶対に必要な、「異質な他者と対立や誤解が生じた場合に、どのように切り抜ければいいのか」という、サバイバル的コミュニケーション力を育てるための一つの方法が、子どもをマルチリンガルに育てることなのです。

たとえば、マルチリンガルの子どもを見ていると、日本語で話すときはお辞儀などの日本人らしい身振りをし、ドイツ語で話すときは少し声を低くして、イタリア語のときは相手との距離を少しつめて話しています。言語のスイッチを切り替えると、文化のスイッチも切り替わるようで、自分のふるまいを使い分けているようにも感じます。

これは、相手と場面を見極め、それに自分を対応させる「表現力」が非常に高いということ。マルチリンガルの子どもは、言語や文化を越えていろいろな人たちとコミュニケーションを重ねることで、一言語の人とは比べ物にならないほど幅広い経験を積んでいきます。それは、どんな異なる環境にも対応できるアイデンティティーの引き出しの豊かさであり、多彩な社交術につながるのです。
マルチリンガル教育の「リスク」とどう向き合うべきか
そんな「メリット」がありつつも、ひと昔前までは、子どもをマルチリンガルに育てることに抵抗を感じる人も多くいました。1970年代には「バイリンガルの子どもは、モノリンガル(一言語しか使わない)な子どもに比べて知能が低い」と結論づけたアメリカの調査結果もありました。しかし、それは英語に不慣れな移民の子どもを対象とした調査だったのです。

最近の研究では、逆にマルチリンガルに育つことで認知発達面にプラスの効果があることが証明されています。2012年に『米国科学アカデミー紀要』で発表された論文でも、ノースウエスタン大学の研究チームが、バイリンガルの子どもはモノリンガルの子どもと比べて、注意力やワーキングメモリー(短期的に情報を保存しつつ処理する能力)が優れていると証明しています。

言語教育の現場で用いられる「言語ポートレート」。白い人型の中に自分の複言語を色別に表現してもらったもの。山本ら主催のマルチリンガル教育セミナー(2016年)より
そのような結果があったとしても、「いろいろな言語を学ぶことで、母語がおろそかになるのでは」と、マルチリンガル教育について心配される方もいらっしゃるかもしれません。これはケースバイケースなのですが、日本在住で、日本語を話している小学生のお子さんが、週5日、1日1時間の外国語レッスンを受けたとして、日本語力が低下する心配はまったくありません。行動学の研究でも、外国語の学習は母語に悪影響を与えないことが証明されています。

「そうなると、日本語力は保てても結局、母国語以外は身につかない」と思いがちですが、冒頭で述べたように、読み・書き・聞く・話す、すべての技能をネイティブレベルに、と考えるのは非現実的です。「言語教育」はもちろん大事ですが、グローバルコミュニケーションとして母国以外の国の知識や文化を知り、思考力を身につけ、表現する力を培うことも大切なこと。「言葉」はあくまでも、そうしたプロセスで用いる手段の一つです。

次回は、そんなグローバルコミュニケーションを育むために、「読む・書く・聞く・話す」をどのように身につけさせていけばいいのか? 子どものマルチリンガル教育を日常生活から見つける具体的な方法についてお話しします。
プロフィール

山本絵美(やまもと えみ)
オランダ、ライデン大学日本学科の日本語専任講師。早稲田大学大学院日本語教育研究科の博士課程にも在籍。研究テーマは「海外在住のマルチリンガルの子どもたちの言語教育」。著書に、マルチリンガルの子どもが楽しく学べる日本語教科書『おひさま』(くろしお出版)が2017年12月刊行予定。『おひさま』のFacebookページ https://www.facebook.com/おひさま-1731025060461592/

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