育児でキャリアを諦めないで。髙島屋 横浜店が保育施設を叶えたかった理由

育児でキャリアを諦めないで。髙島屋 横浜店が保育施設を叶えたかった理由

2018年11月22日公開

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子育てをしながら働く人たちにとって、「子どもの預け先」はとても重要な問題です。休みの日に急に仕事が入った場合、一時保育を利用する人も多いと思いますが、「いっそのこと、職場に保育施設があれば……」と考えたことのある人も多いのではないのでしょうか。

そのなかで、髙島屋 横浜店では、繁忙期限定でオフィスの会議室に企業内保育施設を開設。女性職員が7割を占めるほか、取引先の販売員も女性が多いという横浜店が保育施設の開設に至ったきっかけは、2017年に店長に就任された青木和宏さんの「育児によってキャリアを諦める人を1人でも減らしたい」という強い思いからだといいます。

そこで、発起人である青木店長と、保育施設の開設を推進した大木健司副部長に、開設に至った経緯や、そのなかで気づいたこと、そして、開設によって職場に与えたポジティブな影響について伺いました。

取材・文:小沢あや 撮影:有坂政晴(STUH)
プロフィール

青木和宏(あおき かずひろ)
株式会社髙島屋 横浜店 店長。1987年に入社し、柏店メンズカジュアル売場に配属後、宣伝部などを経て、クロスメディア事業部長、営業企画部部長などに従事。2016年に横浜店 副店長に。翌年、執行役員・横浜店店長に就任。店長就任からわずか数か月後に、企業内に保育施設を開設。

大木健司(おおき けんじ)
株式会社髙島屋 横浜店 販売第1部副部長。2001年に入社し、新宿店の婦人靴売場に配属。その後、同店のギフトサロンなどを経て、2014年からは横浜店の総務部人事グループに配属。今回の保育施設の開設に向けて従事し、2018年9月に現部署の副部長に就任。
百貨店の日曜勤務の大変さと、休みを取りにくい空気を変える
女性の構成比が極めて高いという百貨店業界。そのため、女性のライフステージの変化による「働き方の影響」を、企業だけでなく、周囲の人々も大きく受ける環境にあります。

一方、店舗で働く子育て世代の人にとっても、「子どもが急に熱を出しても、欠勤するのは難しい」「繁忙期に休みにくい」といった、シフト制勤務で働く難しさがあります。そんな、どこよりも「両立支援策」に取り組むべき百貨店業界において、髙島屋では働きやすい環境をどのように整えていったのでしょうか?
青木:髙島屋では、1991年から全社的に育児勤務制度を導入していました。ちょうど当時の私は子どもが生まれたばかりで、育児の大変さを実感していたので、ぜひ社内が前向きに変わっていけばいいなと思っていました。

でも、結局制度を使えるかどうかは職場の空気次第。本人から「お先に失礼します」とは言いづらいので、最初は周りから時短勤務の職員に「そろそろお迎えのお時間ですよ」と、声をかけていく運動から始めようと呼びかけました。

髙島屋 横浜店 店長 青木和宏さん

髙島屋ではほかにも、短時間勤務と通常勤務のミックス型で勤務できる制度や、子どもの学校行事に参加できるスクールイベント休暇などを設け、子育て中でも活躍できる風土づくりを率先しているとのこと。

2013年には、髙島屋で初めて女性の代表取締役が誕生。現在、(株)髙島屋の職員において、女性管理職は30.4%を占めています。しかし、女性職員が多くを占める髙島屋にとって、両立支援の課題はつきません。
青木:店長に就任する以前から、現場のスタッフとコミュニケーションをとるため、たびたび売場に出向いていたのですが、子育て中の職員などから「日曜勤務が大変だ」という声をよく聞いていました。

通常の週末だけでなく、ゴールデンウィークやクリアランスセールなどの繁忙期の日曜や祝日は、人手不足になりがちでした。そんなときに「日曜日をお休みにしてください」と言うのが心苦しい人もいます。

それから、髙島屋はどういうわけか社内結婚が多いんです(笑)。なので、子どもの面倒を見るために、夫婦どちらかが日曜日を休まないとならないという、夫婦間での働き方の問題もありました。預け先が見つからないがゆえに、働く意欲のある職員が、キャリアアップの機会を失っているのは問題です。店長になってすぐ、福利厚生の手当以外に経営陣がサポートできることはないかと、保育施設の開設を考えるようになりました。

誰もが「継続して利用したい」と思える環境づくりを徹底する
青木:あるとき他社の取り組みをリサーチしていたところ、熊本の百貨店には、百貨店独自の勤務形態に合わせた保育施設があるという話を聞きました。

そこで、横浜店の場合はどこにニーズがあるのかをリサーチするべく、あらためて自社の職員にアンケートをとってみると、「平日の満員電車に子どもを乗せて、横浜まで連れてくるほうが大変」「土曜日であれば、認可保育園が預かってくれる」という声が多かったんです。

そもそも、熊本は車通勤の方も多いようで、子どもと一緒に出勤するにも手がかかりにくい。でも横浜は、ほとんどの人が満員電車で通勤をしているんですよね。同じ百貨店でも、首都圏と地方では働く環境も違います。

利用する人のニーズや環境にあったものを提供しなくては意味がありません。経営層の課題感とアンケートの結果を受けて、「電車が空いている日曜日や祝日、繁忙期に限定した保育施設をつくったらどうか?」と、開設が確定しました。

現在も使用している告知用ポスター
しかし、青木店長と人事部が中心になった保育施設の事務局が、いざ開設に向けて動き出すと、さまざまな課題が出てきたといいます。まずは施設スペースの確保です。横浜駅一帯は、都市中心部で家賃も高く、空き物件も少ない。

適切な場所を見つけられない状況で青木店長のなかにひらめいたのが、土日に使われていない髙島屋のオフィスにある「会議室」です。平日は重要な会議が行われている場を、安心して預けられる保育施設にするために、どんな取り組みをしたのでしょうか。
大木:大切なお子さんをお預かりするうえで、親御さんからの「信頼」を得ることはとても重要です。しかし、当初は、職員やお取引先の販売員などから「こんなところで預かるの?」「もし災害があったとき、(保育施設のある)9階からどうやって避難するの?」という不安の声もありました。

そのための対策活動として、トライアル期間に防災・避難訓練をしっかりやりました。細かくシミュレーションをするだけでなく、その結果をきちんと開示することで安心できる環境であることを伝えました。

開設当時、総務部人事グループだった大木健司さん
青木:場所の確保の次は、保育を誰に任せるかを考えました。正直に申しあげますと、予算確保の問題もありました。しかし、ここはしっかりとした専門業者にお願いすることを優先し、パートナー業者をリサーチしました。また、預ける親御さんの視点をもって、いくらならば継続して利用してもらえるのかを検討し、近隣の保育所の相場より少しでも安くなるように調整しました。

また、お弁当は持参してもらうことになりましたが、ほかのお子さんのお弁当を間違って口にしたらあぶないですよね。「けんじ たまご」など、アレルゲンを記載したプレートをつける運用にしました。

保育施設の様子
かけ声で終わらせないためには、経営トップのコミットが絶対に必要
これらの細やかな取り組みを積み重ねていくなかで、次に着手したのは、実際に利用してもらうための社内PR。どの企業にも起こり得るのが、「制度があっても利用していない、知られていない」という状況です。さまざまな環境で働く職員とお取引先の販売員に、保育所に対してポジティブな印象とメリットを伝えるために、青木店長たちが行ったこととは?
青木:トライアル期間中、保育施設に対して様子見の人が多かったんです。社内啓蒙のため、まずは数パターンのポスターをつくって、できるだけ大勢の人の目に届くところに貼りました。ベビー用品売場から赤ちゃんのマネキンを集めて、イメージカットを撮影したのですが、私もマネキンを抱っこして、宣伝しました(笑)。こういうのは、経営層が率先してやらなければなりませんからね。

青木店長自ら宣伝隊長になってポスターを作成
大木:女性活躍のようなスケールの大きな取り組みは、どうしても働く人全員の課題として捉えられにくく、「かけ声」だけで終わってしまいがちです。実現するためには、経営層が前向きな姿勢を示し、時間をかけてコミットしていくことがとても大事になってきます。

私たちも、このポスターを掲げながら、一つひとつの売場に説明と利用の呼びかけをしていきました。まずは利用者を増やさなければいけないので、本気で説明しましたね。また、うまく説明できないことで不安が生まれるのは避けたかったので、質問には即答できるように心がけました。

あとは、トライアルを設けて、実際に利用してもらい、フィードバックをもらう。手探りで始まった施策なので、改善するための意見はとても貴重でした。

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