【医師監修】着床前診断とは? 行う目的と方法、メリット、問題点

【医師監修】着床前診断とは? 行う目的と方法、メリット、問題点

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出生前診断と同様に世間で賛否がある「着床前診断」。日本での実施回数もまだ少ないこともあり、初めて耳にする人、名前だけ聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。今回は、着床前診断についてご紹介します。







この記事の監修ドクター

六本木レディースクリニック 山中 智哉先生

不妊治療専門クリニックとしてどうあるべきかを常に考え、私たちだからこそできる心のこもった診療ができるよう心がけています。
http://www.sbc-ladies.com/
着床前診断とは?種類、メリット、対象者、安全性について

着床前診断とは、名前の通り受精卵が着床する前の段階で行われる検査のことです。どのような目的で行うのか、誰でも受けられるのか。まずは、着床前診断とはどのようなものなのかを説明します。
着床前診断とは?
着床前診断とは、体外受精において受精卵の染色体や遺伝子を検査し、異常がないかどうかを調べる技術です。この診断は特定の遺伝子異常の有無を診断することを目的として行われます。

そもそも自然の妊娠では体の中で受精した受精卵のうち出産までにいたる割合はわずか25%〜30%とされています。これは、受精卵の多くが染色体異常を持っている事が原因のひとつです。染色体に異常をもつ受精卵の多くは、着床しても流産、死産してしまいます。

着床前診断では、こういった染色体異常の受精卵を調べた上で、胎児として発育できる受精卵を子宮に戻します。その点は、羊水検査や絨毛染色体検査といった妊娠後に異常の有無を調べる出生前診断と大きく異なります。

また、着床前診断と同じ技術を用いる検査として、「着床前スクリーニング」と呼ばれるスクリーニング検査が存在します。この検査は、流産を減らし着床率を上げる目的で行われます。

これらの技術によって、実際に流産率が減少することが証明されています。妊娠が成立する前に受精卵に異常があるかどうかを検査することで、胎児の致死的な疾患を早期に診断したり、妊娠後の流産や死産による女性の肉体的、精神的負担を減らそうと開発された技術です。

着床前診断でわかること・メリットは?
着床前診断を行うことによって、それぞれの受精卵の染色体異常の有無が分かるほか、技術的には男女の産み分けも可能ということにはなります。しかし、日本では男女の産み分けが禁止されているため、かつては、タイなど海外に渡航し治療を受ける夫婦もいたということですが、そのタイでも、2014年以降は違法となっています。

着床前診断のメリットは、出生前診断と比較して検査そのものが胎児や母体に負担や悪影響を与えるリスクがないほか、遺伝子疾患を持つ子供が産まれてくる可能性のある夫婦がそのリスクを回避できること、診断のタイミングが妊娠前の段階であるため中絶に至らないですむ事が挙げられます。

受けられる人・場所は?
着床前診断は、誰にでも受けられるものではありません。現在、日本では日本産科婦人科学会の指針のもと、「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」「筋強直性ジストロフィー」「Leigh脳症」「ミトコンドリア病」などといった重い遺伝性疾患を持つ人を対象としています。

着床前スクリーニングについては、日本産科婦人科学会の指針によって日本では実施している施設が少ないのが現状です。海外では、アメリカ、イギリス、フランス、北欧、ロシア、トルコ、アルゼンチン、中国、韓国、インド、タイなど、多くの国で実施されているようです。

また、日本やタイではほぼ不可能とされている産み分け目的の検査は、米国などでは現在も規制されていません。そのため、どうしても着床前診断で産み分けをしたい人は渡航しているようです。しかし、渡航しての着床前診断は、次のような難点があることを踏まえておきたいところです。

・渡航は2回必要となる場合もあり、最大で1週間以上の滞在が必要となる

・渡航費と滞在費として450万〜500万円程度が必要となる

・現地で受精卵がきちんと作れる保証がない

・医療レベルや言語・文化が違うためトラブルが起こりやすい

・違法とされている国で知らずに行うと、処罰されることも

安全性は?
着床前診断は、胚盤胞となった受精卵から細胞の一部を採取する方法で検査します。心配されるのは、胚盤胞の段階の受精卵を刺激する事へのリスクです。胚盤胞とは、卵が受精してからおよそ5日後にあたります。この頃の受精卵は、既に赤ちゃんに育つ部分と胎盤になる部分に分かれている状態となっています。

着床前診断は、胚盤胞の中の胎盤になる側の細胞を採取して行われます。この細胞採取では、着床率やその後の成長に差はないという事がアメリカの研究で報告されているとのことです。

ちなみに、着床前診断は顕微授精よりも前に行われた実績のある医療技術でもあり、2007年までの間にはヨーロッパの不妊学会に登録されているだけで5,000人以上が着床前スクリーニングを受けた上で誕生していることも分かっています。着床前スクリーニングによる誕生数は、アメリカで誕生した赤ちゃんも合わせると推定3万人以上とされています。その中で、赤ちゃんに異常が見られたという報告はありません。

着床前診断の方法

着床前診断は、具体的にはどのような方法・順序で行われるのでしょうか?次は、診断の流れや検査の方法の種類についてご説明します。

診断・スクリーニングの流れ
着床前診断は、受精卵から細胞を採取する必要があります。また、複数の受精卵が必要となるために体外受精の場合にのみ受けられる診断方法となります。ちなみに、体外受精では他の精子のDNAの混入を避けなければならないため、卵子に1個の精子を直接入れる顕微授精を行うことになります。

診断ではまず、顕微授精による受精卵を培養するところから始まります。受精卵が胚盤胞の状態になったら、外側にある透明帯と呼ばれる殻に穴を開けてその穴から細胞を取り出し、検査を行います。ちなみに、細胞は取り出しても受精卵には影響はないとされています。取り出された細胞で、受精卵1つずつ異常があるかどうかを診断します。

検査の上で良好であると診断された受精卵を子宮に移植します。移植の対象にならなかった受精卵については、凍結保存が可能です。

検査方法
着床前診断で行う検査には、習慣流産などを予防するために行う染色体の検査「aCGH法(アレイCGH)」「FISH法」と、遺伝性の病気を予防するための遺伝子の検査「PCR法」の3つの方法があります。

「aCGH法(アレイCGH)」は22種類の常染色体と2種類の性染色体からなる24種類の染色体全てを調べることができる、着床前診断の中でも最新の検査方法です。受精卵由来のDNAサンプルを正常なDNAサンプルと比較して行うこの検査では、トリソミーなどの染色体の数の異常や不均衡転座などの構造異常が分かります。

「FISH法」は、蛍光色素や蛍光顕微鏡を用いて染色体の特定の部位を検査する方法です。この方法では、染色体の構造異常、数の異常を検出することができますが、検査できる染色体が最大12種類であるところが難点とされています。

「PCR法」では、受精卵から1つの細胞の核を取り出してDNAを増幅することで、特定の遺伝子疾患の有無を調べます。この検査では優性疾患、劣性疾患を含む単一遺伝子疾患を診断できるほか、極微量のDNAも検査が可能であることから親子鑑定や犯罪捜査にも活用されています。

そのほかには、全染色体のスクリーニングと遺伝子型の決定ができる「SNP array法」、シーケンス技術による「次世代シーケンサー」といった新しい着床前診断の検査法も用いられているようです。

着床前診断の問題点とは?日本でスクリーニングが認められない理由

着床前診断は一定の条件に該当する人のみ受けられる検査であるほか、着床前スクリーニングに関しても日本では基本的にまだ認められていません。それでは、着床前スクリーニングのどのような点が日本において問題視されているのでしょうか?

命の選別になる?
着床前スクリーニングは、ダウン症などの染色体異常や性別を同定できることから、生まれる可能性のある受精卵が意図的に排除する意味で命の選別につながるという指摘があります。こういった生命倫理上の観点が、日本での導入がなかなか認められない理由のひとつとなっています。
産み分けは性のバランス破壊につながるとの見解も
着床前スクリーニングによる男女の産み分けは、希望する性別は人それぞれである事を考慮しても、男女比率が偏ってしまう原因となるとの指摘もあります。

着床前診断を受けるか考えるうえで−医師の賛成・反対意見・考え方

反対派の意見・考え方
着床前診断に否定的な意見を持つ専門家は、まず、検査の過程で排除される受精卵が、あくまでも「流産となる可能性が高い」ものであることに注目しています。これは、出産まで進める可能性もわずかながらにあることを意味しており、これらを排除する行為はやはり「命の選別」につながり、倫理的な問題があると見ています。

また、染色体に異常のある受精卵を否定することは、短命者や障害者の生きる権利を否定していることにつながるとの見方もあります。
賛成派の意見・考え方
一方で、着床前診断に賛成の声はどのようなものなのでしょうか?ある医師は、次のようなことを理由に実際に着床前スクリーニングを実施しているそうです。

・不妊で悩む人たちの苦しみを少しでも減らし、妊娠率を上げたいと考えている

・母体の保護を最大の目的としている

母体の保護というのは、流産による母体への影響を減らす事を指しています。流産の原因の多くが、受精卵の染色体異常に起因していることから着床前スクリーニングによって流産率の低下に期待がなされています。

また、命の選別という観点から見た場合、出生前診断である羊水検査では、結果によっては中絶も選択しうるということと、着床前診断によって染色体の診断がなされた受精卵が破棄されるということの間に、どのような倫理的な相違があるのかという意見も挙がっています。

まとめ
着床前診断・着床前スクリーニングは、身体的なリスクが低いだけでなく死産・流産を高確率で防ぐことができる技術といえます。その一方で、診断された受精卵の取り扱いに対し、日本では倫理的に問題視する声が多くあります。今後、臨床研究が開始されることになり、着床前診断が妊娠率や流産率によい結果を与えるのかどうかが明らかになるととともに、倫理的な課題をどのように考えていくのか、これからの行方が気になるところです。

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