過熱する「おトク」競争にブレーキを。ふるさと納税で考える地域のプライド

過熱する「おトク」競争にブレーキを。ふるさと納税で考える地域のプライド

2016年12月6日公開

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自治体へ寄附をすると、寄附金から2,000円を超える額が所得税と住民税から控除され、さらに地域からお礼の品ももらえて、使い道も指定できる――。そんな魅力的な制度として、近年いっそう注目を集めている「ふるさと納税」。2008年に始まった制度ですが、2015年度、全国の自治体に集まった寄附の総額は約1,653億円。これは前年の約4倍となり、メディアでもその経済効果が華々しく報じられています。

しかし、寄附金の総額はもちろん重要ですが、それだけがこの制度の意義なのでしょうか。今回は、そんなふるさと納税の現状と本来の意義をあらためて見直すべく、2012年に全国の自治体のふるさと納税の情報(寄附金の使い道、お礼の品、街の状況等)を一覧できる、ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を立ち上げたブームの牽引者、株式会社トラストバンク代表取締役の須永珠代さんと、長崎県平戸市の職員として、2014年度に寄附金額日本一を達成した黒瀬啓介さんという、制度のキーパーソン二人を招いてお話を伺いました。寄附をする際に重要なインフラであるクレジットカード決済を担うクレディセゾンからは、営業企画部長の相河利尚が参加しました。

2016年のふるさと納税申込期限もあと1か月を切りました。たくさんの魅力的なお礼の品を眺めながらワクワクするのも楽しみの一つですが、より寄附を楽しむためのヒントとなるお話をたくさん伺いました。

取材・文:杉原環樹 撮影:相良博昭
プロフィール

須永珠代(すなが たまよ)
群馬県出身。大学卒業後、ITベンチャー勤務、ウェブデザイナーを経てディレクター、コンサルタントとして活躍。2012年4月、株式会社トラストバンクを設立、同年9月ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」を立ち上げる。2014年1月に日本初となる「ふるさと納税全国セミナー」を開始。自治体職員延べ2,000人以上がセミナーに参加。寄附者向けセミナーでは延べ5,000人以上が参加。2015年12月日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」大賞を受賞。2016年5月に初の著書『1000億円のブームを生んだ 考えぬく力』(日経BP社)を出版。
http://www.furusato-tax.jp/


黒瀬啓介(くろせ けいすけ)
1980年長崎県平戸市生まれ。2000年に平戸市役所に入庁。2012年から移住定住推進業務とともにふるさと納税を兼務で担当。全国に先駆けカタログポイント制の仕組みを導入し、2014年度には、全国初の寄附金額10億円突破、そして寄附金額日本一を達成。現在は、全国の自治体から講演依頼が殺到し、ふるさと納税の研修から職員研修まで幅広く講師を務めている。2016年7月、「ふるさとチョイス」を企画・運営する株式会社トラストバンクと平戸市が「ICTを活用した地方創生に関する包括連携協定」を結んだことにより、平戸市初の民間企業への研修派遣として同社に出向中。
https://furusato-hirado.jp/


相河利尚(あいかわ としひさ)
株式会社クレディセゾン 営業企画部長兼プロモーション戦略グループ部長。TV-CMを中心にセゾンカードの全プロモーションを手掛ける。2002年、ポイントの有効期限をなくした「永久不滅ポイント」のサービスおよびネーミングに携わる。世間の話題をさらった“おじいちゃんが鉄棒でぐるぐる回るCM”(永久不滅ポイント「大車輪編」)など、数々のクリエイティブを手がけたほか、2015年には、オウンドメディア「SAISON CHIENOWA」を開設。新しいブランディングのプロジェクトリーダーとして従事している。
http://www.saisoncard.co.jp/
実質2,000円で全国の地域産品を手に入れることができる、「ふるさと納税」とは?
―ふるさと納税の寄附総額が、前年の約4倍の1,653億円(2015年度)を記録するなど、いま非常に大きな注目を集めています。まずはこの制度について教えていただいてもいいでしょうか。

須永:ふるさと納税は、都市に一極集中しがちな「ヒト・モノ・カネ・情報」を地方に再循環させる、地域活性化の切り札になる制度だと思っています。たとえば私は群馬県に生まれ、18年間もお世話になったのに、社会人になってからの税金はすべて東京に納めてきました。同じような人はゴマンといるし、これでは地方が痩せ細るばかりです。なので、自分が毎年納めている住民税の一部を、「寄附」というかたちで任意の自治体に納めて恩返ししようというのが、ふるさと納税の出発点なんですね。

世界一わかりやすいふるさと納税
―ふるさと納税で、控除が受けられる上限額内(個人の年収、家族構成等により変動)で寄附をしたお金は、そのほとんどが住民税から差し引かれます。さらに、その地域ならではのお礼の品も送られてくるので、メディアでも「お得な制度」として紹介されることが多いですよね。具体的にはどんな流れで寄附ができるのでしょうか?

須永:ふるさとチョイスなど、全国の自治体のふるさと納税の情報を集約したウェブサイトから申込まれるのが便利だと思います。たとえば長崎県平戸市に30,000円を寄附した場合、「平戸の潮風で育った米(20kg)」「特選平戸和牛ローススライス(600g)」「平戸おうごんとらふぐ刺し(3〜4人前)」などのなかからお礼の品を選ぶことができます。その後、確定申告などの手続きをすることで、28,000円が(寄附をした)翌年度の住民税から控除、一部が当年の所得税から還付されますので、寄附をした方は実質2,000円の負担でお礼の品を手に入れることができるというわけです。

―平戸市に住んだことがない人でも寄附できるんですか?

須永:「ふるさと」の意味は人それぞれなので、応援したいと思う自治体ならどこにでも寄附をすることができます。

「応援したい自治体に、どこでも寄附できます」(須永珠代)
過熱する「お得」競争に警鐘を鳴らす人気ウェブサイト「ふるさとチョイス」
―お礼の品による「お得」さでも注目の集まるふるさと納税ですが、ふるさとチョイスでは、「◯◯円相当と記載したお礼の品」や「あきらかに換金性や還元率が高いお礼の品」は今後掲載しないといった基準を設けるなど、制度の原点を守られています。

須永:そもそもお礼の品はふるさと納税の決まりではなく、寄附してくれた方に「せっかくならお礼として地元で採れた野菜などを送ろう」という、シンプルな想いから始まっているんですね。実際、お礼の品がない自治体もたくさんあります。

ただ、隣の自治体が10億円集めたから、うちも集めようというように、お礼の品で寄附金をたくさん集めることだけを目的にしている自治体も一部に見受けられます。なので、あまりにも制度の趣旨から逸脱しているお礼の品を掲載している自治体は、誠に残念ですが、今後情報掲載をお断りさせていただこうと思っています。

黒瀬:寄附者が地方に興味を持つきっかけとして、また、寄附による地域貢献を実感してもらうための入口としてのお礼の品はいいと思うんです。ただ、注意しなければいけないのは、自治体がこれを機に地場産業を活性化し、ボトムアップしていかなければ一過性の取組みになってしまうということ。全国的に寄附金集めが目的となり、お礼の品をどんどん豪華にする動きが出てきているので、単に地方を安売りしているような、いまのふるさと納税の動きには危機感を感じています。

「これを機に地場産業を活性化し、ボトムアップしなければ意味がない」(黒瀬啓介)
須永:同じ牛肉500gと1kg、1万円の寄附でどちらを貰いたいか? と聞かれたら、誰でも1kgを選びますよね(笑)。その戦いになってしまうと、ふるさと納税の本来の意義から完全にかけ離れてしまうと思うんです。

―「お得」さでしか、寄附を集められなくなるのではないかと。

黒瀬:そうですね。そもそも、お礼の品の生産にも限界があります。地場産業からのアウトプットすべてをそれに回してしまったら、一般市場に出すことができなくなってしまう。万が一、ふるさと納税の制度が終わってしまったら、地場産業まで破綻してしまう恐れがあるんです。

―制度に地域が依存してしまってはいけないわけですね。

黒瀬:寄附金額が増加するにつれ、地方にもたらす経済効果が大きいので、その可能性があると感じています。制度に依存するのではなく、このチャンスを使って市場のニーズやマーケティングスキルを学ぶなど、自分たちの土地の強みは何であるかを捉え、何のためにこの制度に取り組むのかのビジョンを持たなければいけないと思っています。

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